ノルウェーの作曲家グリーグの代表作のひとつ「ペール・ギュント」。
ペール・ギュントはもともと劇音楽ですが、作曲者グリーグ自身がのちに2つの組曲に改作しました。
今回はカラヤン・ゴールドシリーズ【CD】から、グリーグ作曲の「ペール・ギュント」第1組曲を聴いてみました。
カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏です。
ペール・ギュントの簡単なあらすじもご紹介します。
■グリーグ「ペール・ギュント」第1・2組曲/ホルベルク組曲:シベリウス「フィンランディア」/「悲しきワルツ」他
- 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
- 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- ドイツ・グラモフォン カラヤン・ゴールドシリーズ
- 発売:ポリドール株式会社【POCG-9358】
グリーグ作曲「ペール・ギュント」第1組曲とは

「ペール・ギュント」はノルウェーの詩人であり劇作家でもあったヘンリック・イプセンの戯曲です。エドヴァルド・グリーグは戯曲「ペール・ギュント」の劇付随音楽を作曲しました。
グリーグはその後、管弦楽用に2つの組曲を改作しています。各組曲の選曲の概略は次の通りです。
- 第1組曲:原曲から第13、12、16、8曲の4つをセレクト。【1888年】
- 第2組曲:原曲から第4、15、21、19曲の4つをセレクト。【1892年】
※歌唱部分や台詞は、器楽への置き換えや省略が行なわれています。
イプセンが「ペール・ギュント」を書いた1867年(慶応3年)当時には、舞台化などは一切考えていなかったようです。
それが舞台で上演されることになった際、作曲家として知名度が上がりはじめていたグリーグに劇音楽の作曲者として白羽の矢が立ったのです。グリーグは「ペール・ギュント」の作曲を1874年(明治7年)に開始し、翌1875年(明治8年)に完成させています。
「ペール・ギュント」の初演は1876年(明治9年)2月24日にクリスチャニア(現在のオスロ)の王立劇場で行なわれました。指揮を務めたのはヨハン・ヘンヌムでした。
「ペール・ギュント」の初演は好評を博したようです。その反面、グリーグの音楽に対する不評もなかったわけではありませんでした。
グリーグはその後、何度も改定を重ねているんだよ!
ペール・ギュントの簡単なあらすじ
「ペール・ギュント」のストーリーは、イプセンがノルウェーに伝わる民謡をもとに作ったものです。
ペール・ギュントの主な登場人物は次の通りです。
- ペール・ギュント:夢見がちな農家の息子でほら吹きの冒険者
- オーセ:ペール・ギュントの母親
- ソルヴェーグ
- イングリッド
- イングリッドの花婿
- 緑色の衣の女性:ドブレ国の王女
- ドヴレ王:トロルの魔王
- アニトラ:ベドウィン族の酋長の娘
- ボタン職人:死神の使い
祖父の代までは豪農だったものの、父親の代ですっかり財産を失った農家に暮らす成年ペール・ギュント。彼は母オーセと二人暮らしをしていました。
ペール・ギュントは夢見がちな成年で「自分は王になる!」などど吹聴し喧嘩に明け暮れ、ろくに働きもしませんでした。そんな息子に説教をする母オーセ。
ある日母親の説教の最中、かつての恋人イングリッドの結婚式が行なわれることを知ります。呼ばれてもいない結婚式に足を運ぶペール・ギュントは歓迎されるはずもありません。
しかしイングリッドはこの結婚を望んでいませんでした。
イングリッドの花婿に頼まれ、結婚を嫌がり蔵に閉じこもっているイングリッドを蔵から連れ出したペール・ギュントでしたが、彼女を抱きかかえ逃亡してしまいます。婚礼の客の目にはペール・ギュントが花嫁を略奪したようにしか映りませんでした。
翌朝、イングリッドに嫌気がさしたペール・ギュントはその場を立ち去ろうとします。ペール・ギュントはイングリッドの結婚式で一目ぼれしていたソルヴェーグのことで頭がいっぱいだったのです。
殺意満々でペール・ギュントを捜索する村人たち。ペール・ギュントは山奥へと追い込まれていきます。
その途中、緑色の衣の女性と出会ったペール・ギュント。その女性は、自身をドブレ国の王女で魔王の娘であると告げるのでした。
ペール・ギュントはドブレ王国を手中に収めようと画策し、緑色の衣の女性に結婚を申し込みます。そしてドブレ王国に向かうのでした。
魔王の宮殿には、魔王の手下であるトロルたちがペール・ギュントを殺そうとして待ち受けているのでした。
魔王と面会できたペール・ギュントは、王女と結婚し、ドブレ王国を自分のものにしたいと伝えます。
しかし…魔王もまたペール・ギュントに3つの条件を提示するのでした。
- ドブレ王国のドリンクを飲むこと。
- 尻尾を付けなければならないこと。
- 追加条件:眼球を傷つけること。
そのドリンクとは牝牛の小便でしたが、ペール・ギュントは飲み干します。そして尻尾も付けます。
宴がはじまる中、魔王は3つ目の条件を言い放ちます。
さすがに目を傷つけることに躊躇するペール・ギュント。命からがら逃げだしますが、トロルたちに追いつかれ万事休す。
その瞬間、教会の鐘が鳴り響き、ドブレ王国は跡形もなく消え去ってしまいました。
命を取り留めたペール・ギュント。とはいえ、未だに村人には追われる身だったのです。
ペール・ギュントは山に小屋を建て身を潜めていました。
するとそこに、イングリッドの結婚式で一目ぼれしたソルヴェーグが姿を現すのでした。うれしさでいっぱいのペール・ギュントはソルヴェーグを小屋に迎えます。
ところが、ここからはどろどろの展開に…
なんと、ドブレ国の王女が赤ちゃんを抱えてペール・ギュントの前に現れたのです。さらにその赤ちゃんはペール・ギュントの子供であり、ソルヴェーグと結婚するなら魔法を使ってでも邪魔をすると脅すのでした。
決断を迫られるペール・ギュントは、ソルヴェーグを守り、自身もふさわしい男性になるべく旅立つことを決意します。ソルヴェーグをその場に残して…
母親のもとに帰ったペール・ギュントでしたが、間もなく母オーセは亡くなってしまいます。
そして長い時間が経過します……
だいぶ歳をとったペール・ギュントはモロッコの海岸にいました。その地で彼は、怪しい商売をして財を成していたのです。
しかし…客だと思っていた連中に、全ての財産を持ち逃げされてしまうのでした。
何もかも失ったペール・ギュントは、砂漠を彷徨っていました。そして盗賊の宝を見つけ横取りします。
今度は予言者(自称)としてベドウィン族にもてなされるペール・ギュント。酋長の娘アニトラの誘惑にメロメロになり、言われるがままに財宝を与えてしまうのでした。
何度目かの無一文になったペール・ギュントは、エジプトに滞在していました。
カイロにある精神病院で皇帝として歓迎されたり、その後も各国を放浪しながら老いていくペール・ギュント。
そんな彼は金の鉱脈を掘り当てるのでした。財産を得たペール・ギュントは、故郷ノルウェーへと舟で向かいます。
しかし…嵐に遭遇し、またしても財産を失ってしまうのでした。
結局、何も持たずに帰郷したペール・ギュント。自分の過ごした時間を自虐的に回顧し、あてもなく森を歩き回っていると、かつてソルヴェーグを残して立ち去った小屋を見つけます。
自分を待ち続けるソルヴェーグの歌声を聞いたペール・ギュントは、後悔の念に襲われ、その場から逃げ去ってしまうのでした。
そんなペール・ギュントのもとに、ボタン職人が現れます。ボタン職人は死神の使いでした。
死神の使いはペール・ギュントは天国にも地獄にも行けないので、柄杓(ひしゃく)の中で溶かしてボタンにしてしまおうとしていました。
自分の人生は何だったのかを知るまで死神の使いに猶予を求めるペール・ギュントでしたが、何ら意味を見つけることができませんでした。
そしてたどり着いたのがソルヴェーグの待つ山小屋だったのです。ソルヴェーグからいつも自分を思ってくれていたことを聞かされたペール・ギュントは、彼女の膝の上で子守唄を聴きながら人生を終えるのでした。
ソルヴェーグの愛に気付けただけよかったのかもしれないけれど…
エドヴァルド・グリーグとは

エドヴァルド・グリーグは、ノルウェーの作曲家です。グリーグについては、『すぐわかる!エドヴァルド・グリーグとは|ペール・ギュントや抒情小曲集で有名な作曲家の生涯について』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:グリーグ「ペール・ギュント」第1組曲について

ここからはカラヤン・ゴールドシリーズ【CD】に収録されたヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、グリーグの「ペール・ギュント」第1組曲を聴いた感想をご紹介します。
【 】は今回聴いたCDの演奏時間です。
■第1曲:朝【4分11秒】
フルートで始まる美しい調べ。清々しさを感じる有名な旋律ですよね。アフリカというよりも、ノルウェーの自然をイメージさせられます。(どちらも行ったことありませんが…)
調べは徐々に雄大さを増し、小川が大河に注ぎこんでいくかのようです。
無一文になったペール・ギュントが、砂漠で迎えた朝だというのがイメージに反しますよね。曲の美しさと物語の場面とのギャップに驚きです。
■第2曲:オーセの死【4分34秒】
ペール・ギュントの母親の死の場面の曲ですね。
やわらかく温かさを感じますが、悲しさを漂わせています。大言癖のある息子を案じている母の情が表現されているように感じられます。
母の子に対する想いは深く深く存在しているのに… ペール・ギュントにもこの時点ではきっと母の想いは届いたはずです。
息子の口から語られる大げさな話を聞きながら、満足そうに亡くなっていく姿が痛々しいです。
■第3曲:アニトラの踊り【3分19秒】
予言者を自称して現れたペール・ギュントに、ベドウィン族の酋長の娘アニトラが誘惑する場面です。「ズン、チャッ、チャ」「ズン、チャッ、チャ」が繰り返されます。
エキゾチックでオリエンタルな感じが心地よいです。(もしかして…アニトラの魅惑に負けて知ったのか?)
弦を弾(はじ)く音色が印象的で、ちょっぴり明るい気持ちになれます。
■第4曲:山の魔王の宮殿にて【2分10秒】
森を彷徨いながら、魔王の宮殿に向かうペール・ギュント。ホルンが気味悪さを演出し、魔王の手下が行進している場面が続きます。
不気味でありながらもどこかユーモラスな旋律は、きっとどこかで耳にされているはず。
同じ旋律を繰り返しながら徐々にテンポアップしていき、クライマックスは大音量に!ティンパニーが大活躍します。
組曲のラストにするにはピッタリな楽曲ですね。
ペール・ギュントのストーリーを知らなくても、ひとつの管弦楽曲として成立しています。
カラヤンとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、第4曲のクライマックスですばらしい迫力を表現しています。
まとめ
- グリーグ自身が劇付随音楽から組曲を編曲している。
- きっとどこかで耳にしている旋律が含まれていると思いますよ。
- ペール・ギュントのストーリーを知らなくても楽しめるのが組曲の魅力のひとつ。
■関連CDのご案内です。
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