まるで白黒写真のような夜の街角の描写。
カラフルではないため、かえって視線を奪われてしまいました。
1994年に東京都美術館にて開催された「ニューヨークを生きたアーティストたち」展の図録から、ウィリアム・アンダソン・コフィンの作品「8月の土曜の夜-八番街で」をご紹介します。
ウィリアム・アンダソン・コフィン作「8月の土曜の夜-八番街で」とは

■ウィリアム・アンダソン・コフィン作「8月の土曜の夜-八番街で」
- 制作年不詳
- サイズ:41.5 × 66.3cm
- 油彩、キャンヴァス
「ニューヨークを生きたアーティストたち」展で展示されていた作品は、色彩感あふれる作品が大半を占めていました。その中で、ひときわ異彩を放っていたのが「8月の土曜の夜-八番街で」です。
白黒写真風に描かれいますが、白黒写真とは明らかに違います。画面中央右寄りに描かれた4人の女性の衣装の白さ。写真撮影ではこのように鮮明な白にはならなかったと思うからです。
夏の土曜日の夜といえども、まだ薄暗かったであろうニューヨークの夜。右手のお店の照明や街灯だけでは、あれほどの明るさを作り出せなかったのではないでしょうか?
そこにコフィンの意図が表現されているのかもしれません。
視線を集める役割を担っているようでありながら、その4人の女性たちは全員後ろ向きで、表情がわかりにくくなっています。手前の4人の女性をひときわ明るく描くことで、奥に描かれている情景にまで視線を誘っているようです。
夜といっても時刻まではわかりませんが、画面右には母親らしき女性に寄り添う少女の姿も描かれています。あまり遅い時間帯に、幼い子供を外に連れ出すことはなかったのではないかと推測します。現代の日本であれば、塾で帰りの遅くなる子供はいるかもしれませんけれど…
描かれている人物の身なりが全体的にきちんとしていることから、治安のよい地域だったのかもしれません。
この作品の制作時期はわかっていませんが、コフィンの亡くなったのが1925年(大正14年)ですら日本の大正時代末期です。大きな石を敷いているのか、コンクリートなのかはわかりませんが、ニューヨークでは歩道もしっかりと舗装されているようですね。
そんなことを考えていると、複数の人物が配置されているものの、この作品は風景画的要素も強く、人々の生活風景画に分類されると思われます。
コフィンが「8月の土曜の夜-八番街で」用いた技法について
コフィンは、グリザイユ画法によって「8月の土曜の夜-八番街で」を描いています。
「グリザイユ」とは、モノクロで描かれた絵のことです。油彩画の下絵としても用いられます。
グリザイユ画法についてもう少し具体的に順を追って説明しますね。
- 下塗りの段階から白と黒の陰影を分けて描きます。
- その陰影の上に色を積み重ねていきます。
グリザイユ画法を用いることで、比較的短い工程で絵の厚みというか立体感を表現できます。
コフィンは「8月の土曜の夜-八番街で」の制作時に、単なる平面だけでなく立体感も表現したかったのかもしれません。
ウィリアム・アンダソン・コフィンについて

19~20世紀にアメリカで活躍した画家ウィリアム・アンダソン・コフィンの生涯については、『すぐわかる!ウィリアム・アンダソン・コフィンとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:コフィン作「8月の土曜の夜-八番街で」について

通常、人の視線は【暗 ⇒ 明】に誘導されるものです。しかし、色彩豊かな作品の中にモノトーン調の作品があると、通常の視線の動きとは逆に鑑賞者の視線を惹きつけます。
白黒からカラーへと変化していった写真と違い、絵画の場合は古くから色彩を用いて描かれていました。ウィリアム・アンダソン・コフィンはあえて白黒写真のような描き方をしたのでしょう。
勝手な推察ですがコフィンがこの作品を描いたのは、次のような動機からだったのではないでしょうか。
- グリザイユ画法を用いた作品を描きたかったから。
- 白黒写真を見ながら描いたから。
- 当時の出版物(カラーではない)に掲載するために描いたから。
- 奇をてらったため。
「ニューヨークを生きたアーティストたち」展の図録解説には、多数雑誌に記事を書いていたコフィンの挿絵のためだったのはないかといった趣旨のことが書かれています。ということは、③が事実に近い可能性が高いことになりますね。そのために、②を行なったかもしれません。
最後に、わたなび流の感想で終わります。
ウィリアム・アンダソン・コフィン作「8月の土曜の夜-八番街で」は、「美術館で鑑賞したい(欲しいとは思わない)作品」です。
「8月の土曜の夜-八番街で」はものすごく興味を引かれる作品ですが、仮に家に飾った場合を想像すると、モダンな部屋でないとマッチしない気がします。やはり美術館や洒落てカッコいいお部屋で鑑賞したい作品です。
まとめ
- 色黒写真のような作品。
- カラフルな作品の中に展示されると、ひときわ注目を集める。
- ずっしりと存在感があるだけでなく、画題からもモダンさを感じる。