聴きはじめてすぐにワクワク感がこみ上げてくる。
それがヨハン・シュトラウス2世作曲の「ジプシー男爵」序曲です。
序曲好きの私が、この作品の魅力についてご紹介します。
指揮はリオール・シャンバダール、演奏はベルリン交響楽団で楽しみました。
■ベルリン交響楽団 Lve in Concert - Strauss,Brahms
- 指揮:リオール・シャンバダール
- 演奏:ベルリン交響楽団
- Solo MUSICA【SM134】
喜歌劇「ジプシー男爵」とは

ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ(喜歌劇)のうち、「こうもり」と並び傑作と称えられる「ジプシー男爵」。その制作には2年の月日が必要だったと言います。
ヨーカイ・モール(ハンガリー)の短編小説「シャーッフィ」をもとに、わずか6週間ほどで台本が書かれました。台本を書いたのはイグナーツ・シュニッツァー(ハンガリー)です。そのため喜歌劇「ジプシー男爵」には、ハンガリー情緒が溢れています。
喜歌劇「ジプシー男爵」の初演は、1885年(明治18年)10月24日にアン・デア・ウィーン劇場(ウィーン)で行なわれました。
喜歌劇「ジプシー男爵」のあらすじ
主な登場人物から紹介しますね。
- シャンドール・バリンカイ:バリンカイ家旧領地の継承者(放浪の旅から帰郷する)
- ホモナイ伯爵:テメッシュ県の知事
- カルネロ伯爵:放浪中のバリンカイを探している政府委員
- ザッフィ:ジプシーの娘でバリンカイと恋する関係に(出生に秘密が…)
- カールマン・ジュパン:「豚王」と呼ばれる金持ち
- アルゼーナ:ジュパンの美しい娘
- ミラベッラ:ジュパン家の家庭教師(生き別れのカルネロ伯爵の妻)
- オットカール:ミラベッラとカルネロの息子でアルゼーナの恋人
- ツイプラ:占い師(ザッフィの育ての親)
物語の舞台はハンガリー・テメシュヴァール。
その地には財宝にまつわる伝説があった。かつてベオグラードの戦い(1717年)において、オーストリアに敗れたトルコがテメシュヴァールに財宝を隠し逃げ去ったというものだ。
テメシュヴァールを統治していたバリンカイ家にはスパイ容疑がかけられ亡命。幼いシャンドール・バリンカイは孤児になり、放浪の旅を続けるのだった。
歳月は流れ成人したシャンドール・バリンカイ(以降、バリンカイ)。かつてのスパイ容疑は晴れ、政府はバリンカイを正当なテメシュヴァールの統治者に認め、その所在を探していた。
ホモナイ伯爵(県知事)の命により、カルネロ伯爵(政府委員)がバリンカイを探すことに。
カルネロ伯爵がバリンカイを連れて帰郷するところから物語ははじまる。
バリンカイがテメシュヴァールの領土を相続するためには証人二人のサインが必要だった。
そのためにバリンカイらが最初に訪ねたのが、ツイプラというジプシーの老女だった。サインを終えたツイプラは、バリンカイとカルネロ伯爵の未来を占いはじめた。
バリンカイは妻と財宝を、カルネロ伯爵はかつて失くした大切なものを手に入れるとツイプラは言うのだった。
もう1つのサインをもらうため、バリンカイらは「豚王」の異名をとるジュパンに会う。しかしこのジュパンは、バリンカイ家の領土を我がものにしようとしていた。しかし訴えられては困ると判断し、サインをする。
ジュパンはバリンカイに自身の娘アルゼーナと結婚するように勧める。その美しさに魅了されたバリンカイだったが、当のアルゼーナはオットカールとの恋が進行中のため「まずは男爵になってから」と言い放ちあしらうのだった。
ここでツイプラの占いが現実のこととなる。アルゼーナの恋人オットカールには、豚王家の家庭教師を勤めるミラベッラという母がいた。実はこのミラベッラこそ、カルネロ伯爵の生き別れの妻だったのだ。カルネロ伯爵は失っていた大切なものを取り戻すことに。
アルゼーナにあしらわれたバリンカイは、落ち込みながら森をさまよっていた。そのとき歌声が聞こえてくる。それはバリンカイがかつて母親に聞かされた歌だった。歌っていたのはザッフィという名の美しいジプシーの娘だった。
ザッフィの後をつけたバリンカイは、占い師ツイプラの家にたどり着く。ザッフィはツイプラの娘だったのだ。
ツイプラはザッフィに、バリンカイが新しい領主であることを伝える。ザッフィはバリンカイを古城へと案内するのだった。
古城への道中、バリンカイはアルゼーナとオットカールが愛し合う姿を目にしてしまう。アルゼーナに恋人がいたことを知ったバリンカイは、アルゼーナへの想いを捨てザッフィと結婚すると宣言した。そして自身を「ジプシー男爵」と呼ぶのだった。
これに驚いたのはカルネロ伯爵で、バリンカイの相手にジプシーは相応しくないと詰め寄る。そんなことにはお構いなしに、ジプシーたちは新たな長を喜ぶのだった。
バリンカイとザッフィは古城で一夜を過ごす。二人を見守っていたツイプラは、財宝のありかは二人が過ごした部屋の壁の奥だと告げる。
財宝は発見された。これを妬んだのが豚王だった。
カルネロ伯爵と豚王は、証人なしのバリンカイとザッフィの結婚を認めようとしない。ザッフィは機転を利かし、鳥たちが証人だと言って二人をかわすのだった。
そこにラッパが鳴り響き、ホモナイ伯爵が兵隊とともに登場する。スペインと戦争するために兵士を募集しているというのだ。
豚王とオットカール(アルゼーナの恋人)は、軍隊に差し出された杯を飲む。しかしそれは、従軍することを承諾する意思表示のための杯だったのだ。
オットカールは従軍を余儀なくされてしまう。
他方、バリンカイとザッフィの結婚を認めようとしないカルネロ伯爵は、占い師ツイプラからザッフィの出生の秘密を告げられる。ザッフィはベオグラードの戦いのおり、トルコ総督から預かったその娘だというのだ。さらには、オーストリア皇帝の血統だというのだ。
驚きを隠せないその場の一同。しかしバリンカイは思わぬ決断をするのだった。トルコ総督の娘と一地方領主の自分とでは身分が違い過ぎると嘆いて従軍してしまうのだった。
悲しむザッフィを振り切り、財宝も国に寄付して軍務に就くバリンカイだった。
二年後、戦争が終わり国内は勝利に沸く。ホモナイ伯爵(知事)によりバリンカイは男爵位を授かり、財産も返却され貴族となる。これにより、ザッフィ(王女)との身分の差による障害が取り除かれ、二人は結婚の喜びをかみしめる。オットカールとアルゼーナも結婚することに。
街中が祝福で溢れ、ハッピーエンドで終幕となる。
ヨハン・シュトラウス2世とは

ヨハン・シュトラウス2世は「ワルツ王」とも呼ばれるオーストリアの作曲家、指揮者です。その生涯については『すぐわかる!ヨハン・シュトラウス2世とは』をご参照ください。
私が個人的に好きな次の曲もシュトラウス一家の作品です。
- 美しく青きドナウ:ヨハン・シュトラウス2世
- 喜歌劇「こうもり」:ヨハン・シュトラウス2世
- 喜歌劇「こうもり」序曲:ヨハン・シュトラウス2世
- 雷鳴と稲妻:ヨハン・シュトラウス2世
- ラデツキー行進曲:ヨハン・シュトラウス1世

わたなびはじめの感想:ヨハン・シュトラウス2世 「ジプシー男爵」序曲について

「ジプシー男爵」序曲は、その名の通り喜歌劇「ジプシー男爵」のための序曲です。約8分間の演奏時間の中にドラマ性が盛り込まれています。
まずは弦楽器の低音によるちょっぴり不穏さを感じる出だしに惹き付けられます。この時点で、すでにワクワク感を感じてしまいます。
その後は牧歌的な落ち着いた雰囲気になりますが、冒頭部分が繰り返されることで波乱の展開を連想させます。
緩急が交互に訪れることで、曲中に引き込まれていくかのような感覚に。弦楽器がドラマチックさを、木管楽器が寂しさを帯びた牧歌的雰囲気を表現しているかのようです。
中盤にはテンポアップしていくポルカのような場面が現れ、シンバルが鳴り響き、盛り上がりを見せます。終盤に差し掛かるころには優雅なワルツ風の旋律も登場します。
ラストは早いテンポで目まぐるしく楽器が鳴り響き、一気にクライマックスとフィナーレを迎えます。
出だしから、期待感を持たせる旋律の緩急で引き込まれてしまいます。聴くだけで物語の情景を勝手にイメージさせてくれる名曲です。
まとめ
- 喜歌劇「ジプシー男爵」は、J.シュトラウス2世の代表作のひとつ。
- 「ジプシー男爵」序曲は、軽快なリズムとドラマチックな展開でワクワク感満載の序曲。
- J.シュトラウス2世は「ワルツ王」と称えられる作曲家。