ベートーヴェン生誕250年の2020年(令和2年)もあとわずか。
ベートーヴェン唯一のオペラ、歌劇「フィデリオ」とはどのような作品なのでしょうか?
今回は、歌劇「フィデリオ」にまつわるエピソードとあらすじをご紹介します。
ベートーヴェン作曲・歌劇「フィデリオ」とは

歌劇「フィデリオ」はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが完成させたオペラです。ベートーヴェンが完成させたオペラはこの作品だけ。
「フィデリオ」のストーリー自体はベートーヴェンが書いたものではありません。
原作者はジャン・ニコラス・ブイイという人物です。さらにオペラの台本(ドイツ語)を書いたのは、ヨーゼフ・ゾンライトナーとゲオルク・フリードリヒ・トライチュケでした。
ベートーヴェンは「レオノーレ」というタイトルで上演したかったのですが、同じ話のオペラがすでに2作品存在していたために却下され、「フィデリオ」に決まりました。
「フィデリオ」の初演は1805年(文化2年)、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で行なわれています。3日間の公演で、ベートーヴェン自らが指揮をしました。
残念ながら興行は失敗に終わります。その主な理由は観客の多くがフランス軍の兵士たちで、ドイツ語が伝わらなかったためでした。
ベートーヴェンは初演の後、この作品を改定しています。
1805年(文化2年)~1806年(文化3年)に改定した「第2稿」では、序曲が変更され全2幕となりました。
1810年(文化7年)には、「フィデリオ」の楽譜が出版されています。
その後「フィデリオ」上演の需要が高まり、1814年(文化11年)に台本・音楽ともに更なる改定をしたのでした。
歌劇「フィデリオ」のあらすじ

ここからは「フィデリオ」のあらすじをご紹介します。
■フィデリオの主な登場人物
- フィデリオ:囚われの夫を救出しようとして男装したレオノーレ。
- フロレスタン:レオノーレ(フィデリオ)の夫で政治犯として刑務所に収監されている。
- ロッコ:刑務所員でフィデリオの上司。
- マルツェリーネ:ロッコの娘で刑務所員。フィデリオに恋心を抱いている。
- ヤキーノ:マルツェリーネの元恋人で刑務所員。
- ドン・ピツァロ:フロレスタンを政治犯に仕立てた刑務所長。
- ドン・フェルナンド:大臣。
第1幕
「フィデリオ」の舞台となっているのは、16世紀末のスペイン・セビリャ近郊にある刑務所です。
ヤキーノがマルツェリーネに結婚を迫りますが、マルツェリーネはフィデリオに夢中になっているため元恋人の結婚を拒みます。しかしマルツェリーネは、フィデリオが男装した女性(レオノーレ)であることを知りません。
マルツェリーネはフィデリオと結婚したいとまで考えているのでした。
そこにマルツェリーネの父ロッコが現れます。フィデリオとマルツェリーネを探していたのです。
ロッコはフィデリオに、マルツェリーネとの結婚を許可します。(フィデリオにはその気はありませんが...)そして、二人が幸福になるためにお金の必要性を伝えるのでした。
フィデリオはロッコに、お金以上に欲しいものがあると伝えます。立ち入ることを許されていない牢屋に行きたいと訴えるのでした。牢屋のどこかには、フィデリオの夫フロレスタンが閉じ込められているはずだったからです。
しかしロッコは、地下牢への立ち入りを許可しません。
ロッコが地下牢に行き、戻ってくるといつも疲れ切っている姿を目にしていたフィデリオは、その理由を尋ねます。しかし理由を教えてはもらえませんでした。
フィデリオを案じるマルツェリーネも父ロッコに、フィデリオを地下牢へ同行させるのをやめるようにと伝えるのでした。
ひとりだけになったロッコのもとに刑務所長のドン・ピツァロが護衛とともに現れます。
ロッコは手紙をドン・ピツァロに手渡します。その中の一通には、大臣がドン・ピツァロを抜き打ち調査するために翌日来所することが書かれていました。
ドン・ピツァロ刑務所長はその横暴さのことで告発されていたのです。
ドン・ピツァロにとって不都合なのはそれだけではありませんでした。自分を告発したフロレスタンは世間には死んだと思われているのに、実はまだ生きて収監されているのですから。
ドン・ピツァロ刑務所長はフロレスタンを殺害することを決意するのでした。そしてロッコに金と引き換えにフロレスタンの殺害を命じます。
ロッコが拒んだために、墓穴を掘るようにと命じます。ドン・ピツァロ刑務所長自らが手を下すことにしたのです。
フィデリオは二人の様子のおかしさに気付きますが、話の内容までは知ることができませんでした。
ヤキーノとマルツェリーネのやり取りの場面。
ヤキーノの結婚申し入れをマルツェリーネは断ります。
その間もフィデリオは夫フロレスタンを探すための方法を考え、囚人たちを日の当たる地上に出してはどうかとロッコに提案します。マルツェリーネも父ロッコにフィデリオの提案を受け入れるように勧めます。
囚人たちは束の間の自由をかみしめられることを喜びますが、自分たちが収監されていることを再認識せざるを得ませんでした。
ロッコはドン・ピツァロ刑務所長からフィデリオを牢獄へ同行させる許可を得て戻ってきます。さらには娘マルツェリーネとの結婚も許可するのでした。
牢獄へ向かうこととなり身震いするフィデリオをみたロッコは、同行するのをやめたらどうかと勧めます。しかしフィデリオは聞き入れません。
するとヤキーノとマルツェリーネが叫びました。ドン・ピツァロ刑務所長が囚人たちが騒いでいる様子をみて激怒していると。
ドン・ピツァロ刑務所長から理由を報告するように求められたロッコは、作り話でその場を切り抜けます。ロッコは囚人たちを監獄へ戻すとともに、フロレスタンの墓穴掘りを急ぐように命じられるのでした。
第2幕
場面はフロレスタンの収監されている監獄。
神を信頼しているフロレスタンは、妻レオノーレが助けに来る夢をみつつ気を失います。
そこに、ロッコとフィデリオがフロレスタンの墓穴を掘るために地下牢に降りてきました。
フィデリオは夫フロレスタンの安否が気になり作業どころではありません。そんなレオノーレをロッコが急かします。
目覚めたフロレスタンはロッコにある願いを伝えます。それは「妻のレオノーレに自分が生きていることを伝えて欲しい」という内容でした。自分が生きていることを知れば、レオノーレが助けに来ると信じていたのです。
普段からレオノーレは勇敢だったとしか思えない。
それか、誰か頼りにできる人物を通じて救助に来ることをイメージしていたのかな?
フロレスタンの願いを退けたロッコでしたが、喉が渇いているのを哀れみ水を与えることをフィデリオに命じるのでした。しかし...水をくれた相手が自分の妻であることには気が付きません。フィデリオはポケットにしまっていたパンも差し出す許可をロッコに求め、フロレスタンに渡します。
そこにドン・ピツァロ刑務所長がやってきて、ロッコに準備の状況を確認します。立ち去るように命じられるフィデリオは、身を隠して様子を見守りまもるのでした。
ピツァロ刑務所長が短剣を取り出しフロレスタンを殺害しようとした瞬間、フィデリオが立ちはだかり、まず自分を殺すようにと叫びます。
夫婦そろって亡き者にできると考えたピツァロ刑務所長でしたが、フィデリオに銃口を向けられるのでした。
そこに大臣のドン・フェルナンドが到着します。
ピツァロ刑務所長はフロレスタンとレオノーレに復讐を誓い、二人は勝利を確信、ロッコはことの顛末がどう決着するのか不安になります。
大臣ドン・フェルナンドは、ピツァロ刑務所長の暴虐な行為の終了を告げるのでした。
ロッコはピツァロ刑務所長がフロレスタンを殺害しようとしていたことを報告します。
妻レオノーレの手で鎖を解かれるフロレスタン。マルツェリーネは、フィデリオが既婚者の女性だったことに驚きショックを受けます。
群衆は命がけで夫を救おうと奮闘したフィデリオ(レオノーレ)の忠義を賞賛するのでした。
神への信仰、夫婦の愛と忠義が貫いている作品です。
舞台が刑務所だけに、個人的には暗い印象を持っているぞ。
NHK・BSプレミアム「プレミアムシアター」で放送された歌劇「フィデリオ」を録画で観たよ!
2020年(令和2年)3月18・20日にアン・デア・ウィーン劇場(オーストリア)で収録されたものだったな。
ウィーン交響楽団の演奏や歌手は素晴らしかった。
ただ...舞台がやっぱり暗いんだよね。
牢屋のセットとかはない、現代的な舞台装飾だった。
自然と役者さんに視線が向くからよかったのかもしれないけれど、視覚的には暗い印象を拭えない気がしたな。

ベートーヴェンとは

ベートーヴェンについては『すぐわかる!ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンとは|その生涯と作品たち』をご参照ください。

まとめ
- 歌劇「フィデリオ」は、ベートーヴェンが唯一完成させたオペラ。
- 同じ話を基にしたオペラがすでに2作品あった。
- ベートーヴェンは「レオノーレ」というタイトルにこだわったが、妥協せざるを得なかった。