2002年(平成14年)に国立西洋美術館で開催された「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」では、ゴヤの作品として紹介されていた「巨人」。
その後の研究で、フランシスコ・デ・ゴヤの作品ではないという見方になっているようです。
図録をもとに回想してみます。
フランシスコ・デ・ゴヤ作「巨人」とは

- 制作年:1808年頃
- サイズ:116.0 × 105.0cm
- 油彩、カンヴァス
何という迫力ある作品でしょう。
「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」では、ぜひとも観たい作品のひとつでした。
画面の半分以上の空間にそびえ立つ巨人の姿の勇ましさには圧倒される思いがします。
巨人は一糸まとわぬ姿でありながら、ポージングの角度や雲などの配置によりいやらしさを感じさせません。
右腕はハッキリと視認できませんが、ファイティングポーズをとって向かってくる何かを駆逐する覚悟を決めているように思えます。
全体的に薄暗い背景が、迫力の演出を効果的にしていますよね。
一方、画面下部の逃げ惑う人々に目を移すと、幌馬車や馬等とともに画面左に移動しています。しかし、手前の山側(画面右)に集団で移動する牛?の群れも見え、混乱している様子が表現されていますよね。
馬から転げ落ちる人や倒れて介護されている女性等、小さいながらも色鮮やかに描かれている人々に対して、サッと影のような筆跡で表現されている人もいます。
手抜きではないのでしょうが、個人的には「もう少し人物を描き込んでも良かったのではないか?」と勝手なことを考えてしまいました。(失礼な感想ですよね…すみません。)
画面全体を引きで観た際には、上述した失礼な違和感は感じません。いい意味でメリ・ハリの効いた演出なのかもしれませんね。
「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」の図録解説によると、1800年代初頭のヨーロッパではナポレオンを褒め称えるような作品が多く描かれていたそうです。
この作品が描かれたとされる1808年(文化5年)は、ゴヤの故国スペインがフランスに対して「スペイン独立戦争(半島戦争)」に突入した時期と一致します。
「巨人」では、戦争の恐ろしさと人々を守護する大いなる存在の象徴としての巨人が描かれているのかもしれませんね。
「巨人」はフランシスコ・デ・ゴヤの作品か否か?

2020年(令和2年)現在、「巨人」の作者についてはハッキリと解明されているわけではないようです。
2002年(平成14年)に国立西洋美術館で開催された「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」では、ゴヤの作品として紹介されていましたが、その後2009年(平成21年)に、プラド美術館はゴヤの作品であることを否定しました。
ゴヤの弟子アセンシオ・フリアの作品だと考えられているようです。
とはいえ、まだまだ研究の余地はありそうです。
フランシスコ・デ・ゴヤとは

フランシスコ・デ・ゴヤの生涯については、『すぐわかる!フランシスコ・デ・ゴヤとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:フランシスコ・デ・ゴヤ「巨人」について

「巨人」は威圧感を放ち、力と迫力で漲(みなぎ)っていますが、逃げ惑う人々の中にポツンと佇むロバ?らしき白い動物が描かれているのにお気づきでしょうか?
その背後には倒れこむ女性を介護しようとする人物の姿が描かれているので、その人物が乗っていたロバなのかもしれません。
巨人以外のすべての生物に動きがある中で、何かを象徴する存在として意図的に描かれているようにも思えます。(想像の域を出ませんが…)
最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。
フランシスコ・デ・ゴヤ作「巨人」は、「美術館で鑑賞したい作品」です。
制作者が誰であれ、自宅で鑑賞するには迫力がありすぎですね。
まとめ
- 迫力ある巨人の姿に圧倒される作品。
- 戦争の恐怖を伝えている可能性がある。
- 2009年以降、プラド美術館は「巨人」をゴヤの作品ではないとしている。