何と物憂げな男性の肖像画なんだろう!
これがジョルジョーネの描いた「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」を観たときの第一印象でした。
正直なところ、あまりに雰囲気が暗くて素通りしかねない感じだったのをおぼろげに記憶しています。
ジョルジョーネといえば、イタリア盛期ルネサンスを代表する画家のひとりです。当時の私は、そのようなことも知らずにいたのでした。
そこで今回は、1994年(平成6年)に東武美術館で開催された「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録をもとに思いを巡らせてみました。
ジョルジョーネ作「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」とは

- 制作年:1505年頃
- サイズ:72.5 × 54.0cm
- 油彩、カンヴァス
この記事を書く前日(2020年7月22日)、ヤフーニュースに「ルネサンス期の肖像画はなぜ「窓枠」に腕をのせているのか――レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『34歳の自画像』」という文春オンラインの記事が掲載されていました。
この記事によると、窓枠(パラペットというのだそうです)に腕を置いたポーズはルネサンス期の肖像画によくみられるのだそうです。
窓枠(パラペット)は作品の世界と観る側の空間をつなぐ役割を持っていて、作品に描かれた人物が窓枠越しにコチラ側に手を伸ばしてくるような印象を与える効果があるのでしょう。
加えて、肖像画の人物が腕を窓枠(パラペット)に置くことで重みを表現することができ、さらには人物が斜めに描かれることで、安定感を生じさせる役目も担っているようです。
ジョルジョーネの描いた「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」も窓枠か手すりのようなモノに右肘をのせていますね。
このアントーニオ・ブロッカルドという男性は、詩人だったようです。1531年(享禄5年・天文元年)に若くして亡くなったと、「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録には記されています。
視線を下に落とし、右手を胸に当てている仕草は、年齢に見合わない物憂げな雰囲気を纏(まと)っています。
作品は全体的に暗く、アントーニオの衣装まで黒ですから、肌の部分が浮き上がってくるよに見えますよね。これは当初からそうだったのか、月日の経過により汚れたためなのかわかりません。
とはいえ、右肘をのせている木が非常にリアルに表現されていて、他の部分に比べて明るい色調であることから、汚れではない気がします。
画面下部の木に打ち付けられている紋章のようなモノにも意味が込められているのかもしれません。
アントーニオは二重瞼がクッキリとしていて鼻筋もスッとした美男子だったのでしょう。美男子にこのような物憂げなポーズをされたら、この作品を目にした女性たちもザワメキ立ったのではないでしょうか?
ジョルジョーネの描いた「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」は、落ち着いた雰囲気とミステリアスな要素を盛り込んだ、魅力的な肖像画だと思います。
ジョルジョーネとは

ジョルジョーネは、イタリア盛期ルネサンス時代にヴェネツィアで活動した画家です。本名は「ジョルジョ・バルバレッリ・ダ・カステルフランコ」ですが、ジョルジョーネで通っています。
ジョルジョーネは、15世紀後半から16世紀にヴェネツィアとその周辺で活躍した美術の一派である「ヴェネツィア派」を代表する画家です。
ジョルジョーネが生まれたのは、1478年(文明10年)頃だと言われています。出生地はヴェネツィアから40km程の距離にあるカステルフランコ・ヴェーネトです。
ジョルジョーネの生涯についての詳しい情報はわかっていませんが、彼はヴェネツィアで画家ジョヴァンニ・ベリーニに師事したと考えられています。
ジョルジョーネはイタリア盛期ルネサンスを代表する画家ではありますが、彼の手によるものだと確実視されている作品は6点ほどしかないとも言われています。
その最大の代表作は1508年(永正2年)頃に制作された「嵐(テンペスタ)」(アカデミア美術館所蔵)でしょう。
「嵐(テンペスタ)」は西洋美術史における最初の風景画だとも考えられています。
しかし、次のような疑問も残る作品です。
- 「嵐(テンペスタ)」に登場する若い兵士と赤ちゃんを抱いた女性が誰なのか?
- そもそも作品の主題は何なのか?
こういった疑問も、作品の魅力の一部なのかもしれませんね。
現代の私たちにしてみると、ジョルジョーネは謎多きミステリアスな画家のように感じられますね。
ジョルジョーネは1510年(永正7年)に、若くしてヴェネツィアで亡くなりました。死因はペストだと考えられています。
わたなびはじめの感想:ジョルジョーネ「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」について

1994年(平成6年)当時、私がジョルジョーネのことをもう少し知っていたなら、もっと目に焼き付けるように鑑賞したことでしょう。
イタリア盛期ルネサンスを代表する画家のひとりジョルジョーネ。現存する作品が10点にも満たないと言われている中の1点なのですから、もっとしっかりと観ておきたかった…
とはいえ、私は肖像画自体にはそれほど強い関心を持っているわけではありません。
悪く言えば、私のこの作品に対する関心は、希少性と有名画家に対するミーハー的な好奇心ということになるのでしょうね。
あと1つだけ、ジョルジョーネの「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」について書かせてください。
あらためて図録を観なおすと、このポージングはなかなかできないような気がします。モデルさんが写真家の指示でポーズをとるような感じだったのでしょうか。私だったら、自分の意思ではできないポーズです。
しかし、その後数百年を経てもなお人目に触れるとするならば、それなりのポージングをしていた方が無難なのかもしれませんね。
最後に、いつものわたなび流の感想で終わりたいと思います。
ジョルジョーネ作「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」は、「美術館で鑑賞したい作品」です。
すばらしい作品ではありますが、自宅で鑑賞という雰囲気ではないように感じました。
機会があるなら、もう一度ジョルジョーネの作品をじっくりと鑑賞させていただきたいものです。
まとめ
- ジョルジョーネはイタリア盛期ルネサンスを代表する画家のひとり。
- ジョルジョーネの生涯についての詳細はわからない。
- ジョルジョーネの描いたアントーニオ・ブロッカルドは詩人だった。