印象的な視線を向ける男性の肖像画。
それがティツィアーノ・ヴェチェッリオの描いた「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」です。
いかにも支配者!とでもいうべき威厳を放っています。それだけでなく、目元には優しさも感じます。
1994年(平成6年)に東武美術館で開催された「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録から思い巡らせてみました。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」とは

- 制作年:1553年~1554年
- サイズ:100.0 × 86.5cm
- 油彩、カンヴァス
ティツィアーノは、近代ヨーロッパ絵画の肖像画のスタイルを完成させた最初の画家とも言われているようです。
それにしても「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」から放たれる気品と威圧的な雰囲気には驚かされます。
「総督」というからには、もの凄い権力を行使したことだろうと勝手に想像していましたが、そうではなかったようです。
マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督は、実質的な支配者というよりは共和国における最高位の象徴的な存在だったようです。本人も周囲に説得されて「総督」という役職を引き受けたとか。
年に数回程度しか務めなかったこともあるようす。78歳という高齢で総督を引き受けているのですから、無理もないことかもしれませんね。
「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録解説によると、どうやらこの作品はティツィアーノの手によるレプリカかヴァリアント(異作)なのだそうです。
肖像画の「本物(適切な表現かどうかはわかりませんが)」は火災で焼失してしまったそうです。
それにしても、目元が印象的な作品ですよね。ですが、よく見るとちょっぴりやさしさを感じます。
身に纏(まと)っている衣装も、手触りまで伝わってきそうな質感で描かれています。70歳を超えているとは思えないほど、チカラがみなぎっている感じがします。
もしかするとティツィアーノの絵画制作の力量によって、実際よりも威厳を増して描かれているのかもしれません。いわゆる「盛っている」という可能性もありますよね。
とはいえ、マルカントーニオ・トレヴィザーニという男性は「総督」にふさわしい人物だったことは間違いないのでしょう。
図録を読み返すことで、感じていた迫力や威圧感が少しだけやわらいだ気がします。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオとは

ティツィアーノ・ヴェチェッリオについては『すぐわかる!ティツィアーノ・ヴェチェッリオとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」について

「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」を観賞したのは約26年前のこと。
あらためて「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録で観直すと、総督の印象的な眼差しと威圧感を感じます。
この作品のサイズは縦1m程なので、西洋の天井の高い宮殿などに飾られていても違和感なかったことでしょう。
ティツィアーノは総督の威厳を表現するように求められた可能性があります。仮にそうだとすれば、顧客の要望に十分応えていると言えますよね。
最後に、いつものわたなび流の感想で終わりたいと思います。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作「マルカントーニオ・トレヴィザーニ総督の肖像」は、「美術館で鑑賞したい作品」です。
庶民的な家屋に飾るには、迫力がありすぎだと思いませんか?
まとめ
- ティツィアーノはヴェネツィア派を代表する画家の一人。
- ジョルジョーネの助手を務めていたことがある。
- マルカントーニオ・トレヴィザーニ氏は78歳で総督になった。