明日はクリスマス・イヴ!
そこでクリスマスについて少し思いを巡らせてみませんか?
「受胎告知(じゅたいこくち)」をテーマにした作品は、複数の画家によって描かれています。
今回は、2002年(平成14年)、国立西洋美術館にて開催された「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」の図録から、フランシスコ・リシ作「受胎告知」をセレクト。
御使(みつかい)がマリアに救い主(イエス)を身ごもることを告げる場面です。
フランシスコ・リシ作「受胎告知」とは

- 制作年:1655年頃
- サイズ:112.0 × 96.0cm
- 油彩、カンヴァス
非常に華やかな雰囲気を持つフランシスコ・リシの「受胎告知」。この作品は新約聖書 ルカによる福音書 第1章26~38節を基に描かれています。
新約聖書からその一部分をご紹介します。
ここに登場する御使(みつかい)の名前はガブリエルといいます。後半には、エリサベツという女性が老年ながら子供を授かったことに言及されていますが、この女性は「バプテスマのヨハネ」の母親です。
御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。すると御使が言った、「恐れるな、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。見よ、あなたはみごもって男の子を産むでしょう。その子をイエスと名づけなさい。彼は大いなる者となり、いと高き者の子と、となえられるでしょう。そして、主なる神は彼に父ダビデの王座をお与えになり、彼はとこしえにヤコブの家を支配し、その支配は限りなく続くでしょう」。そこでマリヤは御使に言った、「どうして、そんな事があり得ましょうか。わたしにはまだ夫がありませんのに」。御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。あなたの親族エリサベツも老年ながら子を宿しています。不妊の女といわれていたのに、はや六か月になっています。神には、なんでもできないことはありません」。
出典:『新約聖書 ルカによる福音書 第1章28~37節』
83ページ 日本聖書協会
御使ガブリエルがマリヤに男の子を生むことを告げ、その子を「イエス」と名付けるように指示している場面です。
でも...絵画で「受胎告知」といえば、マリヤへの訪れのことを意味しているのが一般的なんじゃないかな。
フランシスコ・リシの「受胎告知」では、マリヤが少しうつむいて神妙な面持ちをしている姿が描かれています。聖書にあるように、「思いめぐらしていた」様子を表現したのかもしれません。
御使ガブリエルは若く颯爽としていて、手には白いユリの花を携えています。周囲の空気感からは躍動を感じます。少し黄色が買った緑の衣が美しいです。
マリヤの衣の赤色と青色も鮮やかで、作品を華々しくしています。マリヤの足元の絨毯(じゅうたん)の柄までが、丁寧に描かれているのが印象的です。
画面の両サイドは暗めで、中央に明るく光が差し込んでいることで、メリ・ハリを感じます。漂っている靄(もや)のような空気が、全体の印象に温かみを加えていますね。
「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」の図録解説によると、この作品はもともとアーチ型の形状をしていたようです。祭壇画の上段に飾られていた可能性があり、アーチ型だったことをうかがえる痕跡も残っているとか。
フランシスコ・リシの「受胎告知」は、御使ガブリエルの側には「躍動感」を、マリヤの側には「静寂さ」を感じ取れる面白い作品だと思います。
フランシスコ・リシとは

17世紀スペイン・マドリードにおける盛期バロック期を代表する画家フランシスコ・リシについては、『すぐわかる!フランシスコ・リシとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:フランシスコ・リシ「受胎告知」について

受胎告知は、イエス・キリストが誕生する数ヶ月以上前のできことです。
それは、旧約聖書に記されている預言の成就(じょうじゅ)であり、イエス・キリストの誕生以前の人々が待ち望み、その後の人々により祝われることになるクリスマスに関係しているのです。
クリスマスの期間は、街中やテレビCMなどでクリスマス・キャロルが流れ、その雰囲気を高めています。
日本では「なぜクリスマスを祝うのか?」といった疑問すら頭に思い浮かばないほど、ある意味浸透している気がします。
例えそうだとしても、クリスマスには価値があるのかもしれません。
- 人に贈り物をする気持ちを持てる。
- 家族でおいしい食事をする機会になる(かな?)。
- 心がウキウキする。
こういった、やさしい気持ちもクリスマスの贈り物かもしれませんね。
私が幼かった頃は母と二人暮らしだったこともあり、豪華なプレゼントはあまり期待できませんでした。
10代半ばでイエス・キリストについて知り、母とともにその教えを信じるようになりました。そのときから、クリスマス(イエス・キリストの誕生を祝う)の意味が変わりました。
イエス・キリストは、私たちが神様のもとに戻ることができるように「死」と「罪」を克服してくださったのです。それは想像を絶する苦痛を伴い、死をも受けなければならなかったほどでした。
イエス・キリストの贖罪(しょくざい)と呼ばれる「死」と「罪」を克服するための行為なしには、神様のみもとに戻ることができません。その神様のもとへ通じる道を備えてくださったからこそ、イエス・キリストを信じる人々はクリスマスを祝うのです。
フランシスコ・リシの描いた「受胎告知」をキッカケに、クリスマスを祝う理由を考えてみるのもいいかもしれませんね。
最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。
フランシスコ・リシ作「受胎告知」は、「自宅で鑑賞したい(欲しいと思える)作品」です。
御使ガブリエルの背に翼があることには違和感を感じますが、非常に美しい作品だと思います。
まとめ
- フランシスコ・リシの「受胎告知」は、鮮やかで華やいだ印象を受ける作品。
- この作品は、「新約聖書 ルカによる福音書 第1章26~38節」を基に描かれている。
- 絨毯の柄まで丁寧に描かれている。