美術作品

想い出が甦る、ジョージ・イネス作「クリスマス・イブ」|東京都美術館「ニューヨークを生きたアーティストたち」展より

ニューヨークを生きたアーティストたち_ジョージ・イネス「クリスマス・イヴ」

ジョージ・イネスのこの作品を観たとき、正直に言ってクリスマス・イブをイメージできませんでした。

真っ暗な森から続いている道筋。
そこを一人で歩く人物。
暗闇を明るい月の光が照らしている。

ジョージ・イネスはどのような思いを込めてこの作品を描いたのでしょうか?

ということで今回は、東京都美術館にて1994年(平成6年)に開催された「ニューヨークを生きたアーティストたち」展の図録から、ジョージ・イネス作「クリスマス・イブ」をご紹介します。

ジョージ・イネス作「クリスマス・イブ」とは

ニューヨークを生きたアーティストたち_ジョージ・イネス「クリスマス・イヴ」

■ジョージ・イネス作「クリスマス・イブ」

  • 1866年
  • 油彩、キャンヴァス
  • サイズ:55.9 × 76.2cm

画面の大半が暗闇の支配下に置かれた風景。中央には舗装されていない一本道。鬱蒼とした森も影としかとられることができません。画面中央付近、道のわきに描かれた3本の木も枝に葉はつけてないため、寂しさを増幅させてしまいます。

おそらくはこの作品の主人公であろう人物も、黒い影のようにしか捉えることができません。少し前かがみのような姿勢で歩いていることから考えると、家路を急いでいるのかもしれません。あるいは、肩をすぼめていることから寒さがそうさせているのでしょう。

画面上半分を占める空のほとんどは雲で覆われています。そこに丸い空間が生じ、この作品唯一の光源である月が描かれています。その月灯りにより「クリスマス・イヴ」は、目視できる場景として成立しているのです。

日の丸構図とも言えるこの作品のレイアウト。人の視線は暗いところから明るいところへと誘導されるため、自然と月に視線が集まります。加えて、道幅が画面手前ば広く、奥に行くほど狭くなる三角形をなしている道によっても視線は奥へと誘導され、その過程で人影を認識する流れが形成されています。

現代の日本人が一般的に想像するであろう「クリスマス・イヴ」とは程遠い光景。ジョージ・イネスが生きた時代のアメリカも、都市部は栄えていたはずです。ですが、このような光景もたくさん存在していたのでしょう。

物質的に豊かになった生活を送っている人から見たら、侘(わび)しさやノスタルジーを感じて、感傷的になるのかもしれません。作者のジョージ・イネスが意図したかどうかは別として。

華々しさをみじんも感じさせない作品ですが、「クリスマス・イブ」というタイトルが観る者の想像力をかき立てます。静かで寂しい風景画でありながら、影のように描かれた男性(?)の心情や家族のことを連想させる人物画でもある気がします。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
ジョージ・イネスの「クリスマス・イブ」を観て、あなたはどんな気持ちを感じるかな?

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わたなびはじめの感想:ジョージ・イネス「クリスマス・イブ」

函館夕景

私が東京都美術館で「クリスマス・イブ」を実際に目にしてから、もう25年以上の歳月が流れているなんて… 何だかあっという間だった気がします。

こんな私ですが、クリスマスにまつわる想い出がいくつかあります。

私は幼い時から母と二人で暮らしていました。母は、高いとは言えない月給で懸命に働いてくれていました。そのような状況ですから、クリスマスだからといって欲しいままにプレゼントを買ってもらえたわけではありませんでした。

私が小学生だったころ、アメリカ人が教えてくれる英会話に通っていた時期がありました。それほど長く通った記憶はありませんが、クリスマスパーティーに呼ばれたことは覚えています。とてもささやかなパーティーでしたが、「クリスマスってこうやって過ごすのか…」と感じたのを覚えています。

私が鮮明に覚えているのは、そのクリスマスパーティーの帰り道でのことでした。その日は雪が深々と降っていました。雪の積もりはじめた薄暗い道を帰る途中、家までしばらく距離のある電柱の下に人影を見ました。

立っていたのは母でした。いつもなら仕事や家事で忙しくしているため、迎えに来ることなんてことはありませんでした。そのような状況だったので、母が迎えに来るなんて非常に意外なことだったのです。

どうして迎えに来てくれたの?」と聞いた記憶はありません。おそらく、母も恥ずかしがって本音は言わなかったことでしょう。今となっては直接聞くことはできませんが、寒い冬の日の暖かい想い出です。

もうすぐ50歳になろうかという年齢になると、こういう些細なことでも大切な想い出に変化するものなんですね。

ジョージ・イネスが描いた「クリスマス・イブ」という作品を観たとき、そんな感傷に浸っていました。この絵の持つ独特の寂しさが、よりセンシティブにさせるのかもしれません。

絵の下部中央付近に描かれている人物が、クリスマスプレゼントを抱えているようには見えません。もしかすると、決して大きくはないけれど大切な贈り物を携えて、家族のもとへ急いでいるのかもしれません。

ジョージ・イネスが生まれた時代は、日本では江戸時代の末期です。当時のアメリカといえども、今ほどモノで溢れてはいなかったことでしょう。子供たちは、木彫りの人形などでも喜んでいたかもしれませんね。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
現代の日本の子供の多くは、クリスマスにプレゼントをもらえるのを楽しみにしているはず。
モノがあればあったで、人の満足できる基準もそれなりに上がっていくから、モノを通じて得られる満足感は果てしない。
結局、いつになっても満たされないのかもしれない。

もしも…ものそのものではなく贈り物をくれる人の気持ち(想い)に喜びを感じられたら、物の価値ではない満足感に満たされることだろう。

ジョージ・イネスの描いた「クリスマス・イブ」は明るいとは言えない作品ですが、私は好きです。画題と描いたシーンのギャップが観る側の想像力をかき立てます。

こんな風に心に働きかけてくる作品もあるのだな」と考えさせられました。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
ジョージ・イネスが、どのような想いで描いたのか知りたくなるよね。

わたなび流の感想で終わりたいと思います。
ジョージ・イネス作「クリスマス・イブ」は、「自宅で鑑賞したい(欲しいと思える)作品」です。

今は亡き母との幼い頃の想い出を連想させてくれますから。

まとめ

クリスマス・イブ
  1. 見る人によって色んなことをイメージさせてくれる作品。
  2. ジョージ・イネスはアメリカの有名な風景画家の一人。

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