壮大な「ナイアガラ滝」の側に描かれた二人の人物。ちょっと不思議な印象を受けませんか?
ジョージ・イネスの描いた「ナイアガラ滝」には、自然の雄大さと対比するように人物が描かれているようです。ジョージ・イネスは19世紀のアメリカを代表する画家のひとりです。
1994年(平成6年)に東京都美術館 に開催された「ニューヨークを生きたアーティストたち」展の図録から振り返ってみます。
ジョージ・イネス作「ナイアガラ滝」とは

■ジョージ・イネス作「ナイアガラ滝」
- 制作年:1885年
- サイズ:40.6 × 61.0cm
- 油彩、木製パネル
ナイアガラの滝と言えば、イグアスの滝、ヴィクトリアの滝と並んで世界三大瀑布のひとつに数えられる豪瀑です。この3つの滝に共通しているのは、いずれも国境を兼ねているということ。
- ナイアガラの滝:カナダとアメリカ合衆国
- イグアスの滝:アルゼンチンとブラジル
- ヴィクトリアの滝:ジンバブエとザンビア
エンジェルフォールもあるしね。
ナイアガラの滝をもう少し詳しくみていくと、カナダ(オンタリオ州)とアメリカ合衆国(ニューヨーク州)を分ける国境です。カナダ、アメリカ合衆国双方にナイアガラフォールズという名前の市が存在しています。
ナイアガラの滝は3つの滝(カナダ滝、アメリカ滝、ブライダルベール滝)で構成され、落差は55~58mほどです。河幅についてはカナダ滝が675mと最大で、アメリカ滝が幅330m、ブライダルベール滝15mと続きます。
ジョージ・イネスが描いたのはカナダ滝なのではないかと推察します。アメリカ滝が直線的なのに対してカナダ滝は湾曲していて、「ナイアガラ滝」に描かれている光景は画面中央から右にかけて窪んでいるように見えるからです。
画面左側に広がる河が、急な段差によって滝と化しその後も河として続いています。自然の雄大さと美しさ、さらには水の流れの恐ろしさが伝わってきます。
ナイアガラの滝は今から130年程昔でも、観光(見物)する人は多かったのではないでしょうか。ジョージ・イネスは作品に二人の人物しか描いていません。白い衣装を着た女性と黒い服装の男性のみです。それほど晴れているとは言えない空模様が関係しているのかもしれません。
この男女は水しぶきが上がる巨大な滝を、恐るおそる覗き込んでいるようです。大量の水が落下し、打ち付ける音も相当なものなのでしょう。私も柵などが無ければ腰が引けてしまいそうな気がします。
空が曇っているためか川の水は緑がかっています。画面右下の草も新緑には見えないので、秋ごろの景色なのかもしれません。
ナイアガラの滝とその周辺を描いただけでも、十分にすばらしい作品になったと思いますが、ジョージ・イネスは人物を描き込みました。何かの意図があってのことでしょう。
素人の僕はこう思ってしまうな。
私が推察するに、ジョージ・イネスが人物を描き込んだのは次の効果を狙った意図的なものだったと思います。
- ナイアガラの滝の壮大さを伝える物差し的役割として。
- 人物の先に広がる雄大な光景に物語性を持たせるため。
- 観る者の視線にアクセントを添えるため。
事実、壮大なナイアガラの滝よりも「この二人の男女は何をしてるのだろう?」とイメージしてしまう自分がいます。ただの観光なのかな?それとも危険なことをしないかな?のように。
自然の中にポツンと人工的な存在(衣類等)があると、視線が誘導されてしまいますよね。
晴天の景色なら、二人の明るいストーリーを妄想しやすいですが、曇っているところが何とも言えません。
そろらく私は、ジョージ・イネスが期待した通りの反応を示している気がしています。
ジョージ・イネスとは

19世紀後半に風景画家として名を馳せたアメリカ人画家ジョージ・イネス。その生涯については『すぐわかる!ジョージ・イネスとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:ジョージ・イネス「ナイアガラ滝」について

極端な表現になってしまいますが、水の流れを緑色と白色でここまで表現できるものなんですね。
白くなった水しぶきからはナイアガラの滝の迫力を感じますし、荒っぽい筆触からは下段の川の流れの激しさも伝わってきます。
現代はスマートフォンのアプリの機能等で、不要な部分を取り除くといった画像加工ができます。もしもその加工を「ナイアガラ滝」に施して二人の人物を消したらどうなるでしょうか?
おそらく自然の大きさが感じられないことで単調な印象になり、面白味が半減してしまうことでしょう。
ジョージ・イネスの「ナイアガラ滝」では、画面右側の付きだ出た草木が写真の前ボケのような効果も兼ねているのかもしれません。滝壺付近の荒々しい白い水しぶきが強調されて見えますから。
観る人の視線は二人の人物からスタートして、その奥にある滝壺に誘導され、そしてナイアガラ滝全体へと移動していくのではないでしょうか。
ジョージ・イネスは単調になりがちな風景を、人物を配置することでドラマチックにしたのだと思います。
最期に、いつものわたなび流の感想で終わります。
ジョージ・イネス作「ナイアガラ滝」は、「美術館で鑑賞したい(欲しいとまでは思わない)作品」です。
明るい気持ちに慣れそうだしね。
まとめ
- ナイアガラの滝の壮大さが伝わる作品。
- あえて人物を描いたことで、自然の大きさが強調されている。
- 個人的には、晴れの日の方が美しかったんじゃないかと思ってしまう。