1994年(平成6年)に東京都美術館 で開催された「ニューヨークを生きたアーティストたち」展で出会った作品の一枚。
ジョージ・イネス作「デラウェア河風景」。
渡仏経験のある作者はこの作品を制作する際、バルビゾン派の影響を受けていたのかもしれません。
ジョージ・イネス作「デラウェア河風景」とは

■ジョージ・イネス作「デラウェア河風景」
- 制作年:1861~1863年
- サイズ:71.6 × 122.2cm
- 油彩、キャンヴァス
デラウェア河はアメリカ西部を流れる河川です。ペンシルベニア州とニューヨーク州の境界線の一部になっていて、下流にはニュー・ジャージー州トレントン、ペンシルベニア州フィラデルフィアといった都市があり、最終的にデラウェア湾に注いでいます。
画面の上半分には空が描かれ、雲が大半を覆っています。画面右上には晴れ間が顔をのぞかせていますが、明るい雰囲気は感じません。
空と大地を分けているのは小高い丘のようです。草に覆われているというよりは土感を感じます。
画面中央から右下にかけてデラウェア河が流れています。土色に濁って見えるものの、穏やかな流れのようです。川面には中州なのか小島なのか、それとも筏(いかだ)のような人工物なのかハッキリしない足場があります。煙が立ち上っているのを見ると何かを燃やしているようです。人の姿も数人確認できます。
左岸には牛が描かれています。水浴びをしているのか、デラウェア河に脚を入れている牛も見えます。それにしても、白い牛が視線を惹きつけている気がしてなりません。
牛のいる草原の左側には、木陰を走る蒸気機関車が見えます。
乾いた土がV字状に分かれ、片方には機関車が、もう一方には家らしきものが確認できますね。
19世紀のアメリカにおける、のどかな放牧風景なのでしょう。
ジョージ・イネスは画面左下(鑑賞者の手前)側を細かく描き込んでいるようです。鑑賞者の視線は、岩や草(花?)から白い牛に誘導され、その後デラウェア河を含めた景色へと移っていく構成のようです。
1850年代に2度ヨーロッパに渡っているジョージ・イネス。フランスでは風景や農民の姿を描いたバルビゾン派の画家たちから影響を受けています。「デラウェア河風景」もアメリカの素朴な風景を描いたと思われます。
のどかな酪農地の風景に文明発展の象徴的存在の蒸気機関車を含め点が、ジョージ・イネス流なのでしょう。
日の当たる部分も画面左下が最も明るい感じがします。視線は暗い部分から明るい方へと誘導されるので、「デラウェア河風景」をパッと見た瞬間に無意識に明るい部分を探し出し、上述した視線の流れになるように設計されていると思います。
自然とデラウェア河の周辺で暮らす人々の営みを描き込んだ、のどかで穏やかな気持ちになれる風景画です。
ジョージ・イネスとは

19世紀後半に風景画家として名を馳せたアメリカ人画家ジョージ・イネス。その生涯については『すぐわかる!ジョージ・イネスとは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:ジョージ・イネス「デラウェア河風景」について

キャッツキル山地の小川はハドソン川とその支流のモホーク川、およびデラウェア川に流れ込んでいるようです。
以前、アルバータス・D・O・ブラウワーの作品で「キャッツキル」をご紹介しましたが、そこに描かれていた河もデラウェア河につながっていたのかもしれませんね。
私個人の感想としては、「デラウェア河風景」から明るい印象を受けません。しかし、ジョージ・イネスが自然とそこで生活する人々のあるがままに近い様子を描こうとしたのであれば、すんなり受け入れることができます。
もう少しジョージ・イネスの作品を観てみたいところです。
最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。
ジョージ・イネス作「デラウェア河風景」は、「美術館で鑑賞したい(欲しいとまでは思えない)作品」です。
まとめ
- デラウェア河はアメリカ西部を流れる河川で、デラウェア湾に注いでいる。
- 「デラウェア河風景」を描いた当時、ジョージ・イネスはバルビゾン派の影響を受けていたと思われる。
- アメリカののどかな風景を描いた作品。