2002年(平成14年)に国立西洋美術館で開催された「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」に展示されたホセ・アントリーネス(アントリネス)作の「少女の肖像」。
以前はベラスケスの作品だと思われていたようなのです。
17世紀スペイン・バロック絵画の巨匠ベラスケスと間違われたほどの肖像画に思いを馳せてみます。
ホセ・アントリネス作「少女の肖像」とは

- 制作年:1660年頃
- サイズ:58.0 × 46.0cm
- 油彩、カンヴァス
ホセ・アントリネスは「少女の肖像」で誰を描いたのか?
「わからない...」というのが、この質問の答えになります。
「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」の図録解説には、現在ではホセ・アントリネスが描いたとされている「少女の肖像」が、かつてはベラスケスの作品だと認識されていた期間が長く存在していたと記されています。
ホセ・アントリネスの作品とみなされた理由のひとつとしては、彼の宗教画に登場する天使の顔にこの少女が似ている点が挙げられるようです。
では...ベラスケスの作品と思われていたことをホセ・アントリネス自身は喜んだのでしょうか?
ここからは推測(妄想)の域を出ない話になります。
ホセ・アントリネスが存命中には、「少女の肖像」が他者の作品であると間違われたとしても訂正可能だったことでしょう。
制作者が亡くなった後で「誰が描いたのかわからなくなった」というところかな。
ホセ・アントリネスとディエゴ・ベラスケスは同時代に生きていましたが、ベラスケスの方が約36歳年長です。
ベラスケスは、フェリペ4世の宮廷画家として30年ほどはマドリード(もしくはその近郊)で生活していたはずなので、ホセ・アントリネスもベラスケス絵画の影響を受けていた可能性があります。
ホセ・アントリネスがベラスケスを尊敬していたなら、大巨匠の作品と間違われたとしても気を悪くはしないかもしれません。
ですが、ホセ・アントリネス自身もマドリードで活躍した画家ですから、自身の作品を他者のものと判断されたら気分を害した可能性も否定できませんよね。
話を展開しておいて申し訳ないのですが、結論は出ない単なる推測(妄想)でした。
ホセ・アントリネスの描いた「少女の肖像」という作品に注目してみましょう。
背景と類似した茶色系の衣服、おそらくは光の加減で茶色っぽさを増したであろう髪の毛。こういった印象で、どちらかと言えば「暗い雰囲気」の作品に分類されるでしょう。別の表現を用いるならば「落ち着いた」作品とも言えますね。
しかし幼い少女を描く際、ここまで落ちつかせなくてもいいのではないか?と個人的には思ってしまいます。
折角(せっかく)髪と胸元にリボンを付けて、手には花を持たせているのですから、もう少し華やかさがあった方が可愛らしくなりそうです。袖の白色がアクセントになっているとはいえ、もう少し...ん~。
依頼主の要望(もしくは画家の意思)で、少女を大人っぽく描くことへの優先度が高かったのかもしれませんね。もしくは、背景や衣服の色彩を落ちつかせることで、少女の白い肌が浮かび上がって見える効果を期待したとも考えられます。
少女のハッキリと見開かれた目とキリッとした眉毛。
さらにはしっかりと編まれた髪の毛とキュッと結ばれた口元。
こういった要素からは、少女の意志の強さが伝わってきます。
やんわりと紅潮した頬から、可愛らしさをほんのりと感じます。
このように、少女の表情そのものが、この作品の魅力的なポイントではないかと思うのです。
大人びてはいるけれど、可愛らしさも感じさせるステキな肖像画だと思います。
ホセ・アントリネスとは

17世紀のスペイン・マドリードで活躍した画家ホセ・アントリネスについては、『すぐわかる!ホセ・アントリネスとは|17世紀スペイン・マドリードで活躍した画家』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:ホセ・アントリネス「少女の肖像」について

幼い子供が真剣な表情をしていると、ついつい「可愛いなぁ」と思ってしまいます。(もうすぐ50歳になるという年齢も関係しているのでしょう。)
わが子の話で恐縮ですが、七五三の記念写真を写真館で撮影していただいたことがありました。子供なのに和服を着て、キリッとした表情で写っているのです。
どうみても年齢に不釣り合いな格好をしているのが、かえってかわいく見えてしまうのは親バカですね。
幼い子供にとっては「いい記念写真」を撮るために、いっぱい我慢をしていたのでしょうね...
ホセ・アントリネスの「少女の肖像」を思い返しながら、こんなことを考えていました。(今となっては、懐かしい思い出のひとつです。)
最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。
ホセ・アントリネス作「少女の肖像」は、「自宅で鑑賞したい(欲しい)と思える作品」です。
大人びてはいるけれど基本的に可愛らしい少女の表情に、心が和むであろうと思うからです。
まとめ
- 「少女の肖像」のモデルについては不明。
- かつてはベラスケスの作品だと思われていた時期があった。
- おもに宗教画を描いたと言われるアントリネスだが、肖像画や風俗画も少し遺している。