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謎めいた上目遣いの肖像!モレット・ダ・ブレーシャ作「男の肖像」|東武美術館「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」より

ルネサンスの絵画_モレット・ダ・ブレーシャ「男の肖像」【アイキャッチ】
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謎めいた上目遣いの肖像!

モレット・ダ・ブレーシャの描いた「男の肖像」の印象です。

肖像画で視線が上に向いている作品は珍しい気がします。一般的には、鑑賞者の方を見つめているものや横に視線を逸らしている作品が多いもの。

先日、目線を下に落としているジョルジョーネの描いた「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」をご紹介しましたが、モレット・ダ・ブレーシャの描いた「男の肖像」からも惹き付けられる何かを感じます。

1994年(平成6年)に東武美術館で開催された「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録をもとに思いを馳せてみました。

モレット・ダ・ブレーシャ作「男の肖像」とは

ルネサンスの絵画_モレット・ダ・ブレーシャ「男の肖像」
  • 制作年:1520年頃
  • サイズ:73.7 × 56.0cm
  • 油彩、カンヴァス

「男の肖像」が描かれたのは、モレット・ダ・ブレーシャがジョルジョーネの影響を受けていた20歳頃のことだったようです。

ジョルジョーネの描いた「若い男の肖像<アントーニオ・ブロッカルド>」と同じように窓枠(パラペット)か手すりのようなモノに右腕をのせているポージングですね。

しかしモレットの描いた男性は、視線を自身の左上に向けています。これによってこの作品を観る人の視線は、男性が見つめる画面右上から両目をたどり右肩に、そして右手の人差し指へと向かい、手すりに到達する流れになります。「Z」を裏返しにしたようなイメージです。

「ひねりの加えられた構図」とでも言うべきなのでしょうか。動きのない肖像画でありながら、興味深い効果を発揮していると感じました。

描かれている人物が誰なのかはわかりません。さらには研究者の間でも、この作品がモレットによるものだと決まるまでには経緯があったようです。

背景や帽子、衣装の大部分が黒っぽいために、全体的に暗い印象を受けます。そのため男性の顔が強調されて浮かび上がってくるようです。

サラリとした金髪もナチュラルに描かれていて、しつこさを感じません。白い襟は画面全体を引き締めるアクセントになってますね。

興味深いのはグレーの手袋です。手にフィットしているためか、個人的には少し不気味さを感じます。

視線が顔の向きとは逆の上を向いているのもおもしろいですよね。鑑賞者の方を見つめていたり、顔と同じ方向を見つめている作品は見慣れている気がします。この視線によって、描かれた男性の内面を表現しているように思えます。

ところでこの男性。やさしさをにじませつつも少し冷たい印象を受けませんか?

後世にまで遺る可能性のある肖像画ですから、理想の姿を描かせたのだとは思いますが、誤解されそうな要素を含んでいるようにも思えます。

モレット・ダ・ブレーシャ「男の肖像」は、ブダペスト美術館のルネサンスコレクションの中でも高い評価を得ている作品なのだそうです。

モレット・ダ・ブレーシャとは

イタリア・ヴェローナイタリア・ヴェローナ

モレット・ダ・ブレーシャは、16世紀にイタリアで活躍した画家です。本名は「アレッサンドロ・ボンヴィチーノ」。

モレットは1498年(明応7年)頃にブレーシャ(ブレシア)で誕生しました。

モレットの故郷ブレーシャは、イタリア北部のロンバルディア州にある街です。
ローマ時代には「ブリクシア」と呼ばれていて、アルプス以北との交易が盛んでした。

ブレーシャには中世の遺跡や歴史的建築物が遺っています。

歴史的建造物の中でもランゴバルド王国時代に建造された修道院は、ユネスコ世界遺産「イタリアのロンゴバルド族:権勢の足跡」の一部となっています。

「モレット・ダ・ブレーシャ」という名前も「レオナルド・ダ・ヴィンチ」と同じで、「ブレーシャ(町)のモレット」という意味なのでしょう。

モレットの若い時代についての資料はそれほど多くはないようです。そのため絵画技法を学ぶ際、誰に師事したのかもわかっていません。

「ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画」の図録解説から、モレットの画風についての記述をご紹介します。

初期にはティツィアーノや同郷の画家ロマニーノの影響を受けて画風を形成しているが、ヴィンチェンツォ・フォッパに代表される1400年代ロンバルディア派の伝統により強く結びついている。美しい色彩や情熱的で鮮やかな想像力といったロマニーノのヴェネツィア派な自由で生き生きとした画風とは異なり、モレットは客観的で描写的な自然主義や銀色がかった冷たい色彩、ローマ様式を模倣するような古典主義を結び付けた様式を生み出している。

出典:『ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画図録』
ヴィルモーシュ・タートローイ著 ガブリエッラ・マールクラーフ、吉村有子訳 68ページ

モレットも自分の画風を形成する過程の初期段階で、ヴェネツィア派の画家ティツィアーノの影響を受けていたのですね。

その後は客観的描写と銀色がかった色彩、ローマ様式を自身の中で融合させて、モレット独自の境地を切り開いたということでしょう。

モレットはブレーシャだけでなくミラノ、ベルガモ、ヴェローナ、ヴェネツィアなどで活動したようです。

モレット・ダ・ブレーシャは、1554年(天文23年)に故郷ブレーシャで亡くなりました。

わたなびはじめの感想:モレット・ダ・ブレーシャ「男の肖像」について

イタリア・ベルガモ(旧市街地)イタリア・ベルガモ(旧市街地)

モレット・ダ・ブレーシャの「男の肖像」は、視線が印象的であることはお伝えしました。

もう少し付け加えさせていただくと、この作品からはちょっと「曲者(くせもの)」感が漂ってきませんか? イヤな感じまではしませんが…

私がこのポージングをしたら、家族をはじめとして観る人のほとんどが噴き出してしまうことでしょう。もしくは失笑ですね。

そう考えると、この男性はかなりのイケメンであったであろうことが想像できます。自信もみなぎっていたのかもしれません。

これまで肖像画にはあまり関心を持っていませんでしたが、このところ心境の変化を感じはじめています。

最後に、いつものわたなび流の感想で終わりたいと思います。
モレット・ダ・ブレーシャ作「男の肖像」は、「美術館で鑑賞したい作品」です。

いつの日かもう一度ゆっくり鑑賞したい作品です。特に髪の毛と髭の描き具合が気になっています。

まとめ

モレット・ダ・ブレーシャ「男の肖像」
  1. モレット・ダ・ブレーシャの修行時代などについてはよくわかっていない。
  2. 「男の肖像」は視線の向きが印象的。
  3. ブダペスト美術館のルネサンスコレクションの中でも評価の高い作品。

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