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優雅さが伝わってくる作品!二コラ・ランクレ作 「庭園のコンサート」|江戸東京博物館「エルミタージュ美術館展」より

エルミタージュ美術館展_二コラ・ランクレ 「庭園のコンサート」【アイキャッチ】
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2004年(平成16年)に江戸東京博物館で開催された「エルミタージュ美術館展」で鑑賞した二コラ・ランクレ作 「庭園のコンサート」。

二コラ・ランクレはフェート・ギャラント(雅宴画)を得意とした風俗画家です。

新型コロナウイルスの影響が続く昨今。この作品のように屋外で音楽を聴けることも幸せのひとつであると感じずにはいられません。

二コラ・ランクレ作 「庭園のコンサート」とは

エルミタージュ美術館展_二コラ・ランクレ 「庭園のコンサート」
  • 制作年:1690~1743年(不明)
  • サイズ:76.0 × 107.0cm
  • 油彩、カンヴァス

二コラ・ランクレが「庭園のコンサート」を描いた時期はわかりません。

この作品において二コラ・ランクレは、庭園で優雅なひと時を過ごす裕福な家庭に生まれた若者たちの雅な娯楽シーンを描いたのでしょう。まさにフェート・ギャラント(雅宴画)で名を馳せた画家の作品です。

3人ずつの男女(計6人)が屋外で過ごすワンシーン。モデルになる人物にポーズをとらせてはいるのでしょうが、実際に屋外で描いた作品ではないと思われます。屋外の風景を屋外で描く姿勢はもう少し後の印象派の画家たちからですから。二コラ・ランクレの美化されたイメージが絵画になった作品だと、個人的には考えています。

まずは画面に描かれている風景を中心に鑑賞してみます。

この庭園は木や草が生い茂っているのどかな環境ですね。路上で振り向く姿勢の男性の側には、花が黒っぽく描かれています。陰か掛かっているためでしょう。路上の男性の影は1時の方向に伸びていることから、画面には描き込まれていない何か(木?)の影か、それとも二コラ・ランクレが意図的にそうさせたのか...

普段は人通りの少ない道なのでしょう。庭園とはいえ、女性の足元には大きめの石が転がっており、馬車の車輪でできたかのような轍(わだち)らしき窪みも見えます。

木の葉は生い茂っており、フェート・ギャラント(雅宴画)っぽさを感じるシチュエーションです。枝の先の葉も繊細で柔らかに描写されていて、ソフトな印象に。葉の外側の輪郭はぼかしがかっているためか空と自然に馴染んでいます。

奥に見えるのは湖でしょうか?そこに至るまでにも計5人の男女が描かれています。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
きっと、若者たちに人気のスポットだったんだろうな。

画面中央には大きな屋敷のような建造物が見えます。赤と黒の男性の背面にも、石造りの見張り台のようなものがありますね。

さらに奥に見える山々は遠景であることを感じさせるように青味がかって霞んでいます。

空は晴れていますが、その大半は薄い雲で覆われているため、日差しの強さはそれほど感じられません。いや、場所によりけりですね。

メインで描かれている男女の背後の草木は黒味がかっているため、鑑賞者の視線は自然に華やかな衣装を着た若者たち(特に女性)に誘導されます。両サイドをサンドウィッチ状に暗めの植物で挟まれていますが、空の描写により抜け感が生じ、圧迫感は皆無です。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
圧迫感のあるフェートギャラントってイメージしにくいよね。
あるのかな?

人物たちに注目してみましょう。

路上の赤と黒の男性は斬新なデザインの衣装をまとっています。パッチリと目は見開かれ、黒のベレー帽を斜めにかぶり、リュートか何かを演奏中。振り向きながら演奏しているのですから、それなりに演奏技術を持っているのでしょう。膝裏と足の甲には蝶のような赤いリボン(飾り)を付けています。他のメンバーとは異次元のファッションセンスです。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
振り向いている姿にも気障っぽさを感じるぞ!

路上の男性にうつろ気な視線を向けているのは左から2番目の女性です。見とれているのかもしれません。

左端の扇子を持った女性はやけに寛いだ姿勢ですよね。膝も閉じていないご様子で、正直、ステキには思えません。

楽譜を手にしている女性は歌唱担当なのでしょう。背筋がよく気品を感じます。

歌唱する女性の胸元に視線を送る男性は、最もリラックスしている感じです。音楽よりも歌唱する女性に気がある設定なのかと思ってしまいます。

それとは対照的に、立って横笛を吹く男性は音楽に熱が入っている模様。

男女のリラックスした姿が表情豊かに描き込まれ、それぞれが役割を持っているかのように様々な仕草を展開しています。

衣装の描写に至っては丁寧さと美しさを感じずにはいられません。襞(ひだ)の描写により衣装の質感(素材感)が伝わるだけでなく、6人の衣装のカラー・バランスも見事です。緑の衣装の寛いだ男性の存在は、草木に埋もれてしまいそうですが、歌唱する女性の白く輝いた衣装との対比で視野にきちんと収まります。

一番気になるのは路上の赤と黒の男性です。「なぜ振り向いているの?」と、素朴な疑問が浮かびます。仮に振り向かずに横顔が描かれたとしても、作品としてきちんと成立すると思うのです。優雅さを重視した選択なのか、鑑賞者の視線を惹きつけるためなのか、それとも別の意図があるのか、想像が膨らみます。

鑑賞するうちに細かな疑問(不自然さ)を感じますが、全体として眺めると違和感が無くなるのが二コラ・ランクレの「庭園のコンサート」が持つ不思議な魅力です。

二コラ・ランクレとは

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18世紀に活躍したフランスの画家二コラ・ランクレの生涯については、『すぐわかる!二コラ・ランクレとは』をご参照ください。

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わたなびはじめの感想:二コラ・ランクレ「庭園のコンサート」について

オーストリア・ウィーン【シェーンブルン宮殿】オーストリア・ウィーン【シェーンブルン宮殿】

屋外で開催されるクラシック・コンサートには足を運んだことのない私。

ヴァルトビューネ・コンサート(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)やシェーンブルン宮殿の庭園で開催される夏の夜のコンサート(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)にはものすごく心惹かれます。毎年、「プレミアムシアター(NHK・BS)」の放送で楽しんでいます。

二コラ・ランクレが描いた「庭園のコンサート」は、そういったオーケストラのコンサートではなく、親しい若者たちの余興的な性質のコンサートですよね。もしも楽器を弾けたなら、家族や気の合う仲間と屋外で音楽を楽しんでみたいと感じました。草木に囲まれた環境で音楽を奏でられたら、解放感や感動を味わえそうです。

最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。

二コラ・ランクレ作「庭園のコンサート」は、「美術館で鑑賞したい(欲しいとまでは思わない)作品」です。

どこか牧歌的でで美しい作品ですが、私には浮世離れしている感が先に感じられてしまいます。人物にフォーカスしているわけではなく、かといって自然の景色オンリーでもない...あくまでも、人のいる風景画(情景画)なんですよね。個人的にはどちらかに振り切れている方が好きなのだと思います。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
フェート・ギャラント(雅宴画)のすばらしさを堪能できるセンスを持ち合わせていないだけかもしれないな...

まとめ

ニコラ・ランクレ「庭園のコンサート」
  1. 「庭園のコンサート」の制作時期は不明。
  2. 路上で振り向きざまに楽器を奏でる男性のポーズとファッションに、不思議な魅力を感じる。
  3. 衣装の配色と表現が見事。

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