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レンブラント・ファン・レイン作「愚かな金持ちの譬え」でスクルージを連想?|国立西洋美術館「レンブラントとレンブラント派-聖書、神話、物語」展より

レンブラントとレンブラント派_レンブラント・ファン・レイン「愚かな金持ちの譬え」【アイキャッチ】
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レンブラント・ファン・レインが描いた「愚かな金持ちの譬え」を観ると、チャールズ・ディケンズの名作「クリスマス・キャロル」に登場するスクルージを連想してしまいます。

ディケンズはレンブラントより2世紀ほど後の作家なので、実際は違うのですが...

今回は2003年(平成15年)に国立西洋美術館で開催された「レンブラントとレンブラント派-聖書、神話、物語」展の図録を基に「愚かな金持ちの譬え」について回想してみます。

レンブラント・ファン・レイン作「愚かな金持ちの譬え」とは

レンブラントとレンブラント派_05_レンブラント・ファン・レイン「愚かな金持ちの譬え」

■レンブラント・ファン・レイン作「愚かな金持ちの譬え」

  • 制作年:1627年
  • サイズ:31.7 × 42.5cm
  • 油彩、板

レンブラント・ファン・レインの「愚かな金持ちの譬え」は、暗くて狭い部屋(空間)にロウソクの炎の明かりがフワッと広がっているインパクトの強い作品です。

描かれている人物が若者ではなく、老人というところも印象的。長い年月をかけて財産を蓄えてきた人物を連想させます。
(ケチなスクルージみたい...)

「愚かな金持ちの譬え」を描いたレンブラントはネーデルランド(現在のオランダ)の画家です。

「レンブラントとレンブラント派-聖書、神話、物語」展の図録解説によると、ネーデルランドにカラヴァッジョ的な明暗を強調した表現を持ち込んだのは、次の二人だったようです。

  • ヘンドリック・テル・ブルッヘン
  • ヘリット・ファン・ホントホルスト

二人ともユトリヒトにゆかりのある画家でイタリア滞在経験があり、カラヴァッジョ作品から影響を受けていました。

「愚かな金持ちの譬え」を観ると、ロウソクの炎は直接描かれていませんが、明かりの伝わり方が絶妙に表現されています。

金貨を持っている老人の右手でロウソクの炎は遮られ、老人の胸元からあごの当たりが一番明るく描かれています。右手の指の外側が、ロウソクの炎の明かりで少し透けていますね。

老人には髭(ひげ)がありますが、頭髪の有無は帽子に隠れているためわかりません。額に深いシワを寄せ、うつろに目を見開き、口が軽く開いている様子から、金貨に見とれているように感じられます。所有する財産に対する満足感とともに、金貨に恍惚(こうこつ)としているのかもしれません。

老人が着ている衣装はおそらく青色なのでしょう。折り重ねられた白い襟や肩にある留め具(飾り?)もアクセントになっています。

机の置かれているのは秤でしょう。その周辺には帳簿か借用書らしき書類が詰まれ、金貨が入っているであろう袋も描かれています。

老人の背後には、扉の開いた棚が確認できます。左端の柱らしきものにも彫刻が施されていますね。

レンブラントは微妙な明るさの中に、細やかな情景を描写したことがわかります。

このタイトルには「愚かな金持ち」と「譬え」というワードで構成されています。

「譬(たと)え」は、主に聖書の譬えを意味する「Parable」という言葉が訳されたものです。ということは、単に強欲な老人を描いた作品ではないことが想像できます。

「愚かな金持ち」については、おそらく新約聖書 ルカによる福音書 第12章15節から始まるイエス・キリストの教えとたとえ話がモチーフになっていると思われます。

それから人々にむかって言われた、「あらゆる貪欲に対してよくよく警戒しなさい。たといたくさんの物を持っていても、人のいのちは、持ち物にはよらないのである」。そこで一つの譬を語られた、「ある金持の畑が豊作であった。そこで彼は心の中で、『どうしようか、わたしの作物をしまっておく所がないのだが』と思いめぐらして言った、『こうしよう。わたしの倉を取りこわし、もっと大きいのを建てて、そこに穀物や食糧を全部しまい込もう。そして自分の魂に言おう。たましいよ、おまえには長年分の食糧がたくさんたくわえてある。さあ安心せよ、食え、飲め、楽しめ』。すると神が彼に言われた、『愚かな者よ、あなたの魂は今夜のうちにも取り去られるであろう。そしたら、あなたが用意した物は、だれのものになるのか』。自分のために宝を積んで神に対して富まない者は、これと同じである」。

出典:『新約聖書 ルカによる福音書 第12章15~21節』
109~110ページ 日本聖書協会

イエス・キリストのたとえ話の中には「金貨」は出てきませんが、「貪欲」という言葉に注目するとレンブラントの描いた「愚かな金持ちの譬え」につながる気がします。

財産を貯め込むだけでは十分ではなく、神様の御業(みわざ)や困っている人のために用いることの重要性を思い出させるような作品です。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レインとは

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「光と影の画家」と呼ばれ、オランダ・バロック絵画を代表する画家のひとりレンブラント・ファン・レインの生涯については、『すぐわかる!レンブラント・ファン・レインとは|「光と影の画家」の生涯について』をご参照ください。

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わたなびはじめの感想:レンブラント「愚かな金持ちの譬え」について

オランダ・ユトリヒトオランダ・ユトリヒト

「愚かな金持ちの譬え」は、それほど大きなサイズの作品ではありません。

しかし...レンブラントの描いたこの作品を目にしたとき、暗い部屋の中に浮かび上がる老人が不気味で印象的だったのを覚えています。

金貨を手にしている老人の姿から、チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」に登場するスクルージを連想してしまいました。

スクルージ似のこの老人は、さぞかし幸福感を味わっていることでしょう。日が暮れて真っ暗になったあとでも金を眺めているのですから。

新型コロナウィルスによるパンデミックで世の中が混乱している現在、ある程度の金銭的貯蓄や食料等の備蓄が必要であることを痛感させられます。平時の時にいかに備えているかで、心のゆとりに違いが生じるからです。

私は莫大な富を手にすることで、どのような心境になるのかはわかりません。その経験がありませんから...

欧米の大富豪の方には、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー氏のように富を人のために用いたという話をよく耳にします。日本にも私財をなげうって、病院や水道設備を整えたりしていた方もいらっしゃいます。

わたなびはじめ
わたなびはじめ
その発想、理念がすばらしい!
ちなみに日本の例は函館の渡邉熊四郎氏のこと。
他にもたくさんいらっしゃると思うけど。

私も本当に少額ながら、いくらかの資金を人のために使うことを心掛けています。(自分の生活の経済的安定も重要ですから、できる範囲でのことです。)

レンブラントの描いた「愚かな金持ちの譬え」を図録であらためて観直して、お金の使い方のことを考えました。

最後に、いつものわたなび流の感想で終わりたいと思います。

レンブラント・ファン・レイン作「愚かな金持ちの譬え」は、「美術館で鑑賞したい作品」です。

もしかすると自戒の意味を込めて、自宅の目に見えるところに飾るのはありかもしれません。

作品そのもののすばらしさというよりも、作品から受け取った印象重視の内容になってしまいましたね。

まとめ

レンブラント「愚かな金持ちの譬え」
  1. 明暗の対比が見事に表現されている作品。
  2. おそらくは、新約聖書にあるイエス・キリストの教えをモチーフにしていると思われる。
  3. 指越しに表現されるロウソクの明かりなどが丁寧に描写されている。

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