まさに清楚と温和を兼ね備えた男性の肖像!
2003年(平成15年)に国立西洋美術館館で開催された「レンブラントとレンブラント派-聖書、神話、物語」展に展示された、レンブラント・ファン・レイン作「修道士に扮するティトゥス」です。
今回は「修道士に扮するティトゥス」の魅力に迫ります。
レンブラント・ファン・レイン作「修道士に扮するティトゥス」とは

■レンブラント・ファン・レイン作「修道士に扮するティトゥス」
- 制作年:1660年
- サイズ:79.5 × 67.7cm
- 油彩、カンヴァス
この作品は「修道士に扮するティトゥス」のタイトルからもわかるように、実在する修道士の肖像画を描いたのではありません。モデルにレンブラント自身の息子ティトゥスを起用し、僧衣を纏(まと)わせています。ティトゥスはレンブラントの晩年にモデルを務めることが度々ありました。
「レンブラントとレンブラント派-聖書、神話、物語」展の図録解説によると、レンブラントの息子ティトゥスはカプチン会(カプチン・フランシスコ修道会)の修道士に扮しているのだそうです。
正直、僕にはよくわからないな…
気になったのでウィキペディアで調べたてみたよ。
「カプチン会」という名称は、印象的な修道服の頭巾(イタリア語のカプッチョ)に由来しているみたい。
どうやら僧衣の色だけでなく、頭巾からも判別できそうだね。
カプチン・フランシスコ修道会は、1525年(大永5年)にカトリック教会のフランシスコ会から分派しました。創始者はイタリア人司祭マテオ・ダ・バッシ(マテオ・バスキ)です。ローマ教皇クレメンス7世の認可を受けて正式に成立したのは1528年(享禄2年)のこと。厳格に清貧主義を貫いたようです。
なぜ、レンブラントはカプチン会の修道僧を描いたのでしょうか?
カプチン会の成立から約130年の時を経たオランダ・アムステルダム。レンブラントが過ごしたこの地にもカプチン会の修道僧がいたのかもしれません。少なくともレンブラントはカプチン会の存在は知っていて、僧衣を入手できる状態だったことは想像できます。この作品を描くために、特注したとも考えられなくはないですが…
1650年代のレンブラントは負債を抱えて破産しています。1660年(万治3年)頃には家も手放し、貧民街に移り住んでいました。そのような状況になってもレンブラントの創作意欲は持続していたんですね。息子ならモデル料もゼロか安く済んだはず。
もしかするとレンブラントは、カプチン会については伝聞でしか知らなかったのかもしれません。晩年の生活状態を考えると、「清貧主義」の修道僧の姿や精神を自身の心に刻みつけるべく「修道士に扮するティトゥス」を描いたとも考えられます。
「修道士に扮するティトゥス」の作品に目を向けてみましょう。
この作品はほとんどが黒色かそれに近い配色で構成されています。光と影の天才と言われたレンブラントは、ティトゥスの顔の周辺にしか光を当てていません。暗い部屋で鑑賞したなら、真っ黒のなかに穏やかな顔だけが浮かび上がって観えるのではないでしょうか。
伏し目がちなティトゥスの表情には穏やかさと品の良さを感じます。血色のよい唇とキリッとした鼻筋、二重まぶたが印象的です。おへその当たりで右手に左手を交差するように置いているのでしょう。時間にとらわれないかのようなゆったりとした落ち着きぶりです。
背景に視線を移すと、植物の生い茂る壁か何かに寄りかかっているかのようです。画面右上から左下に向かって線を引いたとしたら、上(左)の三角形のエリアは黒の領域です。下(右)の三角形エリアに黒色に近い茶色の僧衣が重々しく描かれています。
とても落ち着いた雰囲気の漂う作品です。配色による落ち着きと、ティトゥスの表情やポーズから感じられる穏やかさと清らかさが融合した作品だと思います。
ティトゥスの視線の先が下に向けられていることで、作品の鑑賞者はその視線に誘導されると同時に心情を読み取ろうとすることでしょう。静的な作品の中にドラマを創作しはじめるのです。レンブラントの構図のすばらしさを感じます。
もしも…背景が昼間のように明るく、植物が青々としていたなら、カッコいい男性の肖像画のように観えることでしょう。プロマイド写真のように。
「修道士に扮するティトゥス」は、控えめながらも美しく清らかな作品です。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レインとは

「光と影の画家」と呼ばれ、オランダ・バロック絵画を代表する画家のひとりレンブラント・ファン・レインの生涯については、『すぐわかる!レンブラント・ファン・レインとは|「光と影の画家」の生涯について』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:レンブラント「修道士に扮するティトゥス」について

「修道士に扮するティトゥス」に描かれたような、清楚さと温和さを身に着けたいものです。日々仕事に追われて生きていると、ないがしろにしてしまいそうになる人格的な特質。やはり、年齢を重ねていくなかで、温和で欲張らない人格を目指したいものです。
懐かしい。
最後に、いつものようにわたなび流の感想で終わります。
レンブラント作「修道士に扮するティトゥス」は、「美術館で鑑賞したい(欲しいとまでは思わない)作品」です。
とはいえ、自分と向き合ったり、質素な生活を心掛けるための刺激として、度々鑑賞したい作品でもあります。
まとめ
- レンブラント晩年の作品。
- モデルを務めたのはレンブラントの息子のティトゥス。
- 息子を厳格な清貧主義で知られるカプチン会の修道僧の姿で描いた作品。