美術作品

物語のある風景画!ターナー「イアソン」|横浜美術館「テート・ギャラリー所蔵ターナー展」より

横浜美術館・ターナー展 イアソン

絵の題材を物語に見い出すとき、よりわかりやすく表現する方がインパクトがあるはず。

しかしそれと逆行することで強い印象を与えているのが、ターナーの描いた「イアソン」だと思います。

1997年、横浜美術館で開催された「テート・ギャラリー所蔵ターナー展」での一枚です。

まずは「イアソン」が登場する物語からはじめましょう。

  • 制作年:1802年
  • サイズ:90 × 119.5cm
  • 油彩、キャンバス

イアソンとは

イアソンとは、BC3世紀頃にロドスのアポロニオスが書いた叙事詩「アルゴナウティカ」に登場する人物です。

アポロニオスはギリシア神話やホメロスの叙事詩を参考に「アルゴナウティカ」を書いたと考えられています。

イアソンのアルファベット表記は「JASON」です。
英語風に発音すると「ジェイソン」に近くなると思います。

著者のアポロニオスは叙事詩人であると同時に学者でもありました。
エジプトのプトレマイオス朝時代からローマ帝国時代にかけて存在した、アレクサンドリア図書館の館長(2代目)も務めていました。

叙事詩「アルゴナウティカ」で描かれているのは、コルキス(黒海の果てにある未知の国の設定)から金羊毛皮を取り戻そうとするイアソンとアルゴナウタイの物語です。

金羊毛皮を守っているのは眠らないドラゴンでした。

金羊毛皮とは、ギリシア神話に登場する秘宝のひとつで、金色で翼のある羊の毛皮。

アルゴナウタイとは、イアソンと旅を共にするヘラクレスを含む約50人の英雄たちのこと。

イアソンが金羊毛皮を必要としたのは王位継承のためでした。
金羊毛皮を手に入れることが、イオルコス王ペリアスが王位を継承させるために提示した条件だったのです。

イアソンはアルゴナウタイとともに、巨大な船(アルゴー号)で旅立ちます。

イアソン一行は航海の途中にもさまざまな試練に遭遇します。
その過程ではアテナやプロメテウス、メディア(アイエテスの娘)など、よく知られた名前も登場します。

コルキスにはアイエテスという残忍な王がいます。
このアイエテスが金羊毛皮の持ち主で、もちろんイアソンに渡す気はありませんでした。

イアソンは魔法や薬に熟達したメディアの協力を得ることに成功します。
メディアが父であるアイエテスを裏切り、ドラゴンを眠らせてイアソンは金羊毛皮を手に入れます。

ターナー作「イアソン」

横浜美術館・ターナー展 イアソン

ターナーが描いた「イアソン」は、まさに金羊毛皮を手に入れるために竜の巣に近づいていくイアソンの姿です。

画面は全体的に暗い雰囲気で、特にドラゴンのいる中央部分は暗闇です。
木に隠れながらドラゴンに忍び寄るイアソンの緊張感が伝わってきます。

イアソンの足元(後)には人骨らしきものが散乱し、イアソンの視線の先にはドラゴンの一部(蛇のようなもの)が描かれています。
画面左下は水辺になっているのでしょうか。

ドラゴンの全体像を露出させないことで、かえって緊張感を高める効果を発揮しています。
竜の巣の手前側には金色のような光が差し、明と暗を対比させているかのようです。

この作品は確かにイアソンの物語の一場面を描いていると思います。
しかし、ターナーがどのような意図でこの作品を描いたのかについては、多少疑問が残ります。
その理由は、人物(イアソン)や現実には存在しないドラゴンなどは描かれているけれど、実は風景画なのではないかと思うからです。

1802年(享和2年)、ターナーはスイスやフランスを旅しています。
その旅中に目にしたアルプスの厳しくも美しい風景を、イアソンの物語を題材に描き込んだのではないでしょうか。

旅行期間や作品制作などの時間的つじつまが合わないかもしれないので、ただの考えすぎかもしれませんが…。

ちなみにこの「イアソン」は、ロイヤル・アカデミーに出品されています。
ターナーが古典的な神話を題材にした絵画の中では、初めての出品作品です。

そうそう1802年(享和2年)といえば、ターナーがロイヤル・アカデミーの正会員に選ばれた年でもありました。

ターナーについて

J.M.W.ターナーについては『すぐわかる!J.M.W.ターナーとは』をご参照ください。

すぐわかる!ターナーとは
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わたなびはじめの感想・ターナー「イアソン」

横浜美術館・ターナー展図録

物語を基に絵を描くという行為について自分の記憶を遡ると、小学校の図工の時間にたどり着きます。

正確には絵本でしたね。
もしかすると、それ以前にもあったのかもしれませんが記憶にございません。

おそらくは小学2年生のことだったと思います。
「モチモチの木」(作:斎藤隆介 絵:滝平二郎)を題材に絵を描いたのです。

大きめの画用紙を縦にして描いた水彩画は、透明なビニールに包んで長く実家に飾ってありました。
子供の描くよくありがちな、平べったい絵でした。

それに比べて、ターナーの想像力と表現力のスゴイことには驚かされます。

私には一目観ただけでは何が描かれているのかサッパリわかりませんでしたが、絵の創り出す世界に引き込まれるような感覚になりました。

大人になるまで本を読む習慣がなかった私。
さまざまな物語などを知っていたなら、違った印象で鑑賞できたのかもしれません。

最後に厚かましことは承知の上で、わたなび流の感想を書かせていただきます。

ターナー作「イアソン」は、「自宅ではなく、美術館などの広い空間で鑑賞したいと思う作品です。美しい作品ですが、さすがに欲しいとまでは思えませんでした。

ギリシア神話に基づいた作品は聖闘士星矢くらいしか知らないので馴染みが薄いですし、ちょっと迫力と緊迫感があり過ぎなので…。

まとめ

ターナ・イアソン
  1. イアソンはアポロニオスの叙事詩「アルゴナウティカ」に登場する人物。
  2. イアソンが金羊毛皮を手に入れるため、ドラゴンの巣に入る場面。
  3. ターナーがスイス・フランスを旅したと同じ年に制作された作品。

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