ブリューゲル、ヤン(1世)の描いた「田舎の婚礼」は、17世紀ヨーロッパ(おそらくはフランドル地方)の農民の生活をうかがい知ることのできる作品です。
「農民の素朴な婚礼!」などと表現するのは失礼なことかもしれませんが、村人全員で新しい夫婦の誕生を祝う光景はステキです。
2002年(平成14年)、国立西洋美術館で開催された「スペイン王室コレクションの美と栄光 プラド美術館展」の図録より回想してみます。
ブリューゲル、ヤン(1世)作「田舎の婚礼」とは

- 制作年:不明
- サイズ:84.0 × 126.0cm
- 油彩、カンヴァス
ブリューゲル、ヤン(1世)は、以前ご紹介した東京都美術館「ウィーン美術史美術館所蔵 栄光のオランダ・フランドル絵画展」に展示されていた『小さい花卉画-陶製壷の-』の作者「ヤン・ブリューゲル(父)」を描いた画家と同一人物です。
ブリューゲル、ヤン(1世)の父は、「バベルの塔」や「折衷の狩人」を描いたピーテル・ブリューゲルです。
ブリューゲル、ヤン(1世)の描いた「田舎の婚礼」は、教会らしきゴシック建築の周囲を農民が列をなして行進している場面です。
次の理由から、個人的には風景画的要素を盛り込んだ風俗画だと考えています。
- 行進する人物(特定の個人)にフォーカスされている感じがしないため。
- 画面の左右に樹木が配置され、遠景の景色も美しいため。
- パッと目に入るのが人物ではなく、風景の一部とも考えられるゴシック風の建築物であるため。
上述した要素はありますが、田舎の農民の慣例的な場面を見事に表現しているので、「風景画的要素を盛り込んだ風俗画」と思うにいたりました。
ところで、婚礼の主役はどこに描かれているのでしょうか?
画面中央やや下部には、楽器を奏でる3人の男性が、その後ろには3人の女性が描かれています。花嫁はその後ろを(二人の男性に挟まれて)歩く女性だと思われます。
手に持っているのは花かな?
現在、花嫁の着るドレスは白色が一般的だと思いますが、時代や地域が異なると違うものなんですね。
個人的に注目したのは、前述した楽器を奏でる男性たちです。
手前の男性が抱えている大きめの楽器はギターなのかと思ったらそうではないようです。コントラバスの小型版なのか、ビオラの巨大版なのかはわかりませんが、男性の右手には弦が描かれています。
中央の男性の楽器はヴァイオリンで、奥に描かれている男性が演奏しているのはビオラだと思うのです。
ブリューゲル、ヤン(1世)の「田舎の婚礼」では、人物ひとりひとりが丁寧に描かれていて、おもしろさを感じます。画面左奥の行列の後方の人々は、遠近法的に小さく・ぼんやりと描かれている点も、画家の細部へのこだわりを感じさせます。
現代の結婚披露宴のような華々しさは感じられませんが、村人全体が新しい家族の誕生を祝う光景というのはステキですね。
ブリューゲル、ヤン(1世)とは

ヤン・ブリューゲルの生涯については、『すぐわかる!ヤン・ブリューゲル(父)とは』をご参照ください。

わたなびはじめの感想:ブリューゲル、ヤン(1世)「田舎の婚礼」について

「田舎の婚礼」には低い石垣が描かれていて、垣越しに婚礼の行列を見つめる人たちの姿も描き込まれています。
幼い子供たち(特に女の子)は将来の自分の姿をイメージしながら、花嫁をあこがれの眼差しで見つめていたのではないでしょうか。
空は晴れ、鳥も飛んでいますが、遠方の山並み(丘?)の青色っぽい風景と相まって、少し寂しさも感じます。画面右奥では輪になってダンスしているグループもありますね。
幼い子供の表情や描き込まれた人物の仕草をよく観ると、臨場感が増してくるように思えます。本当にステキな作品ですね。
最後に、いつものわたなび流の感想で終わります。
ブリューゲル、ヤン(1世)作「田舎の婚礼」は、「自宅で鑑賞したい(欲しい)と思える作品」です。
よく観ると、ほんわかしたやさしい気持ちになれる気がするからです。
まとめ
- 「田舎の婚礼」が描かれた時期はよくわからない。
- ブリューゲル、ヤン(1世)にしては、大きめの作品?
- 農民の慣習が伝わってくる名作。